被災地で給油可能な
「どこでもスタンド」を導入

姫路市は今年、地元の燃料配送会社である横田瀝青興業株式会社が開発した「どこでもスタンド」を1台導入した。「どこでもスンド」は災害時に限り、一定の条件をクリアしたうえでだが大型タンクローリーから直接ポンプを接続し、車などに給油することができる簡易型のガソリンスタンド。東日本大震災で被災地に多くの燃料を届けた教訓から同社が開発したものだ。

阪神・淡路大震災では発災後、倒壊家屋や建物、ブロック塀、自動販売機ほかありとあらゆるものが道を塞ぎ、消防車や救急車が被災者のところまでたどり着けなかった。石見氏は当時の経験から、市内で建設業者が建設現場を開設するときにはブルドーザーなど重機の所在を登録してもらうように要請している。有事の際に、重機の場所を明らかにすることによって被災した道路の啓かい作業にあたってもらうためだ。しかし、そのためには大量の燃料が必要になる。

「被災地の復興のためには燃料問題は非常に重要で、『どこでもスタンド』はその解決策となる大きな可能性がある。しかし、スタンドを使うには専門知識をもった資格者も必要になる。本当に被災地で活用できるように、訓練などを通して使い方を徹底的に検証してほしい」と、石見氏は期待を寄せる。

さまざまな防災の取り組みを展開する姫路だが、まだまだ石見氏の目から見て課題は多いという。

1つは、災害対策本部の情報処理能力。最新の機器をそろえているものの、やはり使うのは人間だ。

「装置や仕組みが高度化するほど、うまく機能できるかどうかわからない。東日本大震災では地震が発生した時にガスの元栓を閉めようとしてパニックに陥り、どちら、に回していいのかわからなかったという話もあった。いざというときに、あまり難しい機器を導入しても本当に使えるのか。切羽詰まった時の対応訓練をもっとしなければいけない」と手厳しい。

ほかにも、これまで大きな災害に遭っていない姫路市は、いざというときのボランティアなどの受援体制が弱いと指摘する。熊本地震でも物資の仕分けやボランティアの差配などで当初混乱が生じた。姫路でも同様のことが発生するのではと懸念する。しかし、課題がはっきりすれば解決もできる。姫路市はこれからも1つひとつ、災害に対してレベルアップをはかっていくだろう。

さらに便利になる姫路を災害の広域拠点に

姫路市には陸上自衛隊の姫路駐屯地がある。熊本地震でも、自衛隊が支援のために九州に入る前の中継地点として多くの隊員を受け入れた。

「災害時の自衛隊の活動をみれば、姫路市に駐屯地があることは大変ありがたい。何をおいても自衛隊の存在は災害時の市民の心のよりどころ。東日本大震災でも自衛隊の活躍は目も見張るものがあった。これからも国民のために頑張っていただきたい」とエールを送る。

姫路市長 石見利勝(いわみ・としかつ)氏 京都大学理学部卒、東京工業大学理工学 研究科博士課程修了、工学博士。建設省建 築研究所研究員、立命館大学教授などを経 たのち、同大学政策科学部長・政策科学研 究科長。平成15 年3月から姫路市長に就 任。主な著書に「震災復興の政策科学」(平 成10 年(共著)有斐閣)、「姫路まちづくり 戦略」(平成16年2月)など。

自衛隊の基地があるだけでなく、温暖な気候でこれまで大きな災害もほとんど発生していない姫路は土地としての利便性も高い。現在、国に対して陳情を続けている姫路市を東西に走る播磨臨海地域道路。この道路の整備によって、姫路バイパスと山陽道・中国自動車道が播但道を介して全国と強力につながる。石見氏は「今後、首都直下地震、南海トラフ地震などの大災害が発生した場合、バックアップ拠点が必要になる。高速道路も通じて利便性も高まれば、自衛隊の基地と合わせ姫路市が日本の西の拠点になる可能性も出てくる。その時に備え、まずしっかり自分たちの町を守れるようにしていきたい」と、将来の展望を話してくれた。

 

(了)