●熊本地震は予測できたのか、今後の巨大地震にどう備える

東京大学地震研究所教授・地震予知研究センター長
一般社団法人防災教育普及協会会                 長
                平田直氏

タイトルは「熊本地震は予測できたのか」となっています。結論から言うと、私は「予測できた」と言いたいと思います。しかし世間的には予測されていませんでした。科学的な予測が一般社会には役立っていなかったというのが非常に残念です。さらに言うと、熊本で起きたことは、日本中でどこでも発生すると言っていいと思います。

もう1つ重要なのは、「首都直下地震」と「南海トラフ地震」はいずれも被害は大きいですが、タイプが違うということ。今日は、熊本地震と「巨大地震とは何か」について話します。

日本は阪神・淡路大震災の後に、法律に基づいて「地震調査研究推進本部」を設置。そこで日本中の地震が発生しやすい場所を調べ、「全国地震動予測地図」を完成させました。この製作には10年間、相当の予算と人員を投入し、「海域で発生する地震と、内陸の活断層で発生する地震」を調べたのです。

活断層というのは、過去にそこで大きな地震が発生したという動かぬ証拠です。しかし、この「過去」というのが問題で、例えば地質学者にとって100万年というのは「つい最近」の出来事です。日本は1500万年前に大陸アジアから離れてできたものです。日本列島の形と加わる力のバランスが落ち着いてからも300万年ほど経過しているので、10万年くらいでしたら地質学者にとっては「今」の出来事と言えます。反対に、「昔」と言えば1億年以上前のことです。中央構造線は1億年前にできましたが、これは地質学者にとっても「昔」の出来事です。

そのような状況のなかで、私たちは万年単位の「つい最近の過去」に地震が確かに発生し、すくなくとも数千年の将来にわたって地震が発生する可能性がある場所を活断層とよんでいます。それが日本におよそ2000本あり、そこで地震が発生するとマグニチュード7以上になる活断層を100本選びました。その100本のうちの2本が、今回熊本で発生した布田川断層と日奈久断層です。この100本選んだ中で今回の地震は確かに発生したので、調査委員会では胸を張って「予想が当たった」と言いたいところですが、なかなかそうはいかない。泥まみれになって地層を掘って、昔の地震が発生した情報を調べたところ、「30年以内にマグニチュード7の地震が発生する確率はほぼ0~0.9%である」ということが分かった。私たちは自信をもって出している数字なのですが、一般的に考えると「30年以内に地震が発生する可能性は1%」と言ったら、「これは起きないものだ」と受け取ら
れてしまう。現に熊本県、熊本市にはそう受け取った方もいた。これは私たちの考えていたこととは正反対です。

それではいけないということで、地震調査研究本部では、九州全体では30年以内にマグニチュード6.8以上の地震が発生する確率は30%~40%と評価しました。九州を北部、中部、南部に分けると、中部では20%くらいの確率で発生するということを2年前に発表した。1つひとつの活断層を見ると小さいが、全体を見るとそのような大きな数字になるので、そちらを信用してほしかった。

九州はこれまでにも大きな地震がたくさん発生していた。明治の熊本地震では、1889年から6年間でマグニチュード6クラスの地震が4回発生しているし、最近でも1916年、1975年にも連続して大きな地震が起きています。地震は、1度発生するとむしろ発生しやすくなるのです。これは貴重な教訓です。

マグニチュード7クラスの地震は、実は日本全土・海域をふくめると1年に1回か2回は必ず起きているのです。それが地下深いところで発生していれば災害にはなりませんが、東京の直下で発生すれば、強い揺れに見舞われる建物数や人口が多くなり、被害が大きくなる。それが重要なことなのです。