2016/12/05
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
会場ごとの統合セキュリティVISO
会場の警備についてはリオ2016組織委員会(セキュリティ局)が中心となり対応にあたった。ここでも、統合の仕組みを最大限に生かせるよう「会場統合セキュリティ・オペレーション」(VISO:Venue Integrated Security Operation:ビゾ)と呼ばれる考え方が取り入れられた。リオ五輪の警備をコンサルティング支援したイスラエルのISDSという会社が提唱したもので、コンセプトとしては「関係機関およびRio 2016組織委員会が共同で開発した会場警備のための統合運用基準」ということになる。
概念的にも思えるが「VISOは、単なる哲学ではなく、物理的なことから人的なことまですべてを包含する」とISDS社長のレオ・グレッサー氏は語る。具体的には、会場ごとに組織委員会がさまざまな関係機関と連携しながら警備にあたれるよう、組織体制、指揮調整のあり方、システム設計、設備配置、情報の流れなど、あらゆることが1つの計画のもとで統合されるように考えられているという。「1つの組織は1つの計画しか持つことができない。それが異なっていたのでは統合運用はできない。一方的な計画を押し付けるのではなく、一緒に考え計画を立てテストしていくことが重要」(同)とする。
そのため、各会場とも最初の2日間は関係機関が共同でリスクアセスメントを行い、どうしたら統合的な運用ができるか、どうしたらリスクを軽減できるかなどを話し合う作業から始めたという。ヨットレースが行われた海上コースでは、海軍と組織委員会で警備範囲が明確に定めにくく、こうした現場についても、関係機関が一緒になって現地を視察しリスク分析を行うことで、見落としがないよう計画をまとめあげていくことができたとする。
統合運用基準の策定にあたっては、会場ごとに警備活動が行われる場所をリスト化し、各関係機関がそれぞれの持つロジスティックやテクノロジーを書き込み共有化する作業も行ったという。すべての会場について同時に作業することはできないため、まず、①1競技だけが行われるような独立した会場、②複数の競技が行われる複合会場、③競技は行われない選手村について、モデルを選定し、そこで構築した手法を複製しながらすべての会場に広げていったとする。


組織体制についても、大会警備の指揮調整を行う「セキュリティ・コマンド・センター」(SCC)には、政府機関や軍からのリエゾンが常駐し、逆に政府機関や軍にはSCCの担当者を派遣することで相互に連絡を取りやすい体制を構築した。オリンピックパーク内に設置せれたメイン・オペレーション・センター(MOC)とも連携しやすいように、セキュリティ局長はMOCに常駐するなど、それぞれの話し合いにより最適な配置を考え出していった。
リオ2016組織委員会セキュリティ局ジェネラル・マネジャーとして警備の運営にあたったヘンリケ・ボリ氏は、VISO への具体的なアプローチとして、◇リオ2016組織委員会セキュリティ局と関係機関との力の統合、◇クライアント(選手やメディア、観客などを含む)の同意を得た統一のサービスレベルの保証、◇個別セキュリティ活動の制御、◇配送スケジュールの監視の4点を挙げている。
(了)
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒントの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方