2017/02/08
講演録
サイバー攻撃の予防と対応策/未然防止とCSIRTなどについて

セキュリティ意識甘い日本企業
近年のサイバー攻撃は、巧妙化・高度化し、システマティックに実行される。攻撃の目的も、金銭目的、機密情報の窃盗などから国家による他の組織活動の妨害などにまで拡大。米大統領選で他国が介入したというレポートも出ている。IoTの世界では自動車や航空機、人工衛星なども攻撃対象となってきておりリスクは増大している。昨年は米国のサイバーセキュリティのカンファレンスで、人工衛星のハッキングが簡単にできるという報告があった。
情報セキュリティに関する2016年の動向では、組織が対象だと標的型攻撃が、個人ではインターネットバンキングやクレジットカードの不正利用といった金銭を狙った犯行が多いと報告されている。標的型攻撃では日本年金機構やJTB、富山大が被害にあった事例が有名である。攻撃者は事前調査をしっかり行った上で攻撃する。「やりとり型」といって、関係者を装って担当者と複数回メールのやりとりを行う。質問書と題して添付ファイルを送り、そこにマルウェアをしのばせる。このようなやり方でコンピューターをのっとり、個人情報を盗むのだ。
人は、だめだと言っても添付ファイルを開けてしまう傾向にあり、100%感染を防ぐのは難しい。自然災害とも通じるが、感染した後の被害の極小化や再発防止を考えねばならない。インシデント対応やログ解析をしっかり実施する必要があるほか、対応する組織をしっかり作るべきである。しかし、日本の中小企業ではサイバーセキュリティへの投資が全く拡大していない。サイバーセキュリティ保険についても、日本では複数社で提供しているが、米国では100社以上あり市場規模が大きい。
NTTの高度な暗号技術
2016年2月、Operation Dust Stormというレポートが公表された。その中には重要インフラを狙うサイバー攻撃が2010年から行われ、日本もターゲットになっているという記述がある。対象は電力や石油、ガス、金融、交通、建設といった分野の関連民間企業だ。被害はよくわからないが、攻撃されているのは間違いない。2015年12月23日、少なくともウクライナの電力会社3社がサイバー攻撃を受けた。そのうちの1社では27変電所が停止し、103都市で全域停電、186都市が一部停電したと発表された。ほかの会社も30変電所が停止し、8万世帯が停電したと発表している。民間の調査報告だが、マルウェアのブラックエナジーの亜種が使われたことや、スピアフィッシングメール攻撃でネットワークに侵入したこと、さらにロシアのハッキンググループの関与などが記載された。
さらに昨年1月はウクライナの空港の管制制御システムにもマルウェアによる攻撃があったが、すぐに検知されて大事には至らなかった。また、改めて電力会社に対するgcatバックドアを用いたスピアフィッシング攻撃が行われていることなどが報告されている。スイスでは国営軍需産業RUAG社でマルウェアが検知された。昨年1月に検知されたが、少なくとも2014年9月から侵害されていたようだ。また、防衛市民保護スポーツ省に対しても類似した攻撃が観測され、これにはロシアの関与が疑われている。スウェーデンでは2014年に航空管制システムに攻撃があり、システムダウンにより終日フライトがキャンセルされた。軍も2016年にウェブサーバがジャックされた。英国では鉄道ネットワークが過去1年間に少なくとも4回のサイバー攻撃を受けていたことも明らかになっている。
私はNTT持株会社のセキュアプラットフォーム研究所に在籍している。ここには220名ほどが所属しセキュリティに関する研究を行っており、NTT東西、NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、NTTドコモのサービス向上に役立っている。研究所は世界最先端の暗号技術を20~30年研究している。これとサイバー攻撃対策技術をコアにして、情報を危機対応に使えるようインテリジェンス化する研究も行っている。また、CSIRT(サイバー攻撃対応組織)を運営している。暗号技術には注力しており、例えば、絶対に盗聴できない電話をスノーデン事件をきっかけに作った。
- keyword
- TIEMS
- サイバー攻撃
- サイバーセキュリティ
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方