2020/02/28
企業をむしばむリスクとその対策
□対策のポイント:現時点で企業ができる3つのこと
地震を想定したBCPと感染症BCPとの相違点は前回記しましたが、企業として、今後の動きを注視し続けるのはもちろん、感染症BCPの策定も急ぐべきです。しかしながら、「ことこの期に及んで、感染症BCPを一から策定していて間に合うのか?」という声も上がると思います。そこで、感染症BCPの正式な策定は今後の課題とするにして、現時点で企業ができる3つのことを示しておきます。
ます前提として、「今後、日本国内で感染が拡大していき、社員の中にも感染者が発生する」というシナリオ(想定リスク)に立つものとします。
①社員の家族構成による出勤制約の有無を確認する
感染の拡大に伴い、学校や幼稚園・保育園、通所型の介護施設などが休校・休園することは容易に想定できます。そのような場合、出勤に制約が出てくる社員も多くなります。自社の社員で、子供や要介護家族の状況から欠勤の可能性がある社員がどこに、どの程度いるのかを把握し、代替要員の検討を行いましょう。また、その中に業務の継続に必須な有資格者の有無も確認し、代替手段を検討しておきます。
②社内での濃厚接触者の範囲を決定する
今週に入り、いくつかの企業で社員の感染か確認されたというニュースが入ってきました。リスクマネジメントの観点からは「他の会社で起こったことは、自社でも起こり得る」と考えるべきです。もし、そのような事態が発生したら「どの範囲までを濃厚接触者とみなすか」の基準を設定しておく必要があります。当該社員の席から半径どれくらいの距離にするのか? 部署単位なのか?フロア―全体に及ぶのか? 会議の同席者はどうするか? 仲のいい社員と食事をしていたら?などです。
ちなみに米CDC(疾病予防管理センター)の「新型コロナウィルスガイドライン」による「濃厚接触者」の定義は以下になります。
(1)長期間にわたって感染者から2メートル以内にいた(ケアをした、一緒に生活をした。訪問した、感染者のいる病院の待合室や居室にいた)
(2)感染性分泌物と直接接触した(せきをされたなど)
③第3段階(感染拡大期、まん延期、回復期)に入った際の事業継続レベルを決めておく
「事業を継続しなければならない社会的必要性」や「会社の維持・存続のための収入の確保」の観点から慎重に検討すべき事柄ではありますが、国内でこれ以上の感染拡大に及んだ際に、どの業務をどのレベルで継続するか?を社内で決定し、周知しておく必要があります。そして「継続」しなければならない業務の人員確保対策を検討しておきましょう。
例えば、
継続業務については、①の出社制約にかからない社員を班編成しておき、複数班による交替勤務を行う(班ごとに勤務班と自宅待機班に分類。一定期間ごとに交代勤務する)
継続業務要員としてのクロストレーニングの実施
意思決定を行う責任者など代替要員が限られている者の交代勤務や別の場所での勤務
などです。現在、政府が企業に推進しているテレワークも、業務によっては限界もあります。代替要員対策は、社内に被害が発生していない今だからこそ考えておきましょう。
また、前回に記した
①事業内容が社会機能の維持に特段関係なく
②感染症が発生した際には顧客や売上の減少が避けられず
③効果的な感染防止策を取りにくい業態
であるならば、自主的な一時休業も検討すべきです。
国内でのウイルス感染が今後さらに拡大するか、収束に向かうかはこの1~2週間が山場だといわれています。つまり「もし、悪いシナリオに向かう場合でも、まだあと1~2週間時間がある」のです。収束に向かうことがもちろん全員の願いですが、拡大してしまったらどうすべきか?を考えておくことはまだ可能です。
今回のテーマ:「外部リスク」「経営者・管理職」

企業をむしばむリスクとその対策の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方