ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
【番外編】「シェイクアウト」はもともと地震訓練ではなかった?
「地震が起こったら頭を守る」の本当の意味を考える
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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今回は「ワールド ファイアー ファイターズ」の番外編として、「頭を守る」ということの意味について考えてみたいと思います。
大地震を想定したシェイクアウト訓練では、よく「Drop(伏せろ)」「Cover(守れ)」「Hold on(掴まれ) 」と言われていますが、それぞれのコンセプトや何故そうしたら良いのかが十分に伝わっていないような気がしています。
■STEP 5: DROP, COVER, AND HOLD ON
http://www.earthquakecountry.org/step5/
まず、1番目のDrop(伏せろ)の意味は、「あごを引き、顔を下にして体を丸くする」ことで、「大切な内臓の損傷を守れ」という意味と 「揺れで体を飛ばされるな」「転倒を予防しろ」という意味があります。
2番目のCover(守れ)は頭を守るという意味だけではなく、「顔と首を守れ」という意味があります。なぜなら、顔には眼、鼻、口、耳があり、大地震によりそれぞれの器官を一部でも重症を負ってしまうと、避難はもちろんその後の生活にも支障を生ずるからです。
・眼を損傷すると:見ることが出来なければ避難するのに不便になり、目の前の危険箇所にも気づかなくなる。
・鼻を損傷すると:呼吸が苦しくなったり、ガスや煙、ガソリンなどの危険であり、注意しなければならない匂いを感じなくなる。
・口を損傷すると: 食事できなくなったり、助けを求めたり、また、大声で危険を知らせたり出来なくなる。
・耳を損傷すると:両耳を損傷することは滅多に起こらないと思うが、倒壊建物の崩れる音、何かの爆発音などで万が一聴覚を損傷した場合、地震速報、避難放送、火災発生を音声が聞こえづらくなった場合、危険・避難情報を得られなくなる。
・首(頸椎)を損傷すると:体が動かなくなったり、意識を失ってしまうことがあり、避難できずに倒壊建物から脱出できなくなるなど、危険な状態になる。
また、よく机やテーブルの下に潜れといいますが、日常生活で机やテーブルがある場所は限られており、ほとんどの場合はそれらの下に入れる可能性は低いため、「顔と首を守る=頭を守る」ことを優先するよう教えています。
3番目のHold on(掴まれ)は、机やテーブルが運良く近くにあって下に潜れた場合に、地震の揺れに耐えるために机やテーブルの4つの脚をそれぞれ持ちなさいと指導しているが、脚を持つことが出来た4人以外の人たち以外が持つ場所は教えていません。
アメリカでは、机やテーブルの脚を持つことが出来なかった人は、脚に掴まっている4人の足首を両手で持ち、その後ろの人たちはその足首を持った人たちの足首を両手で持つことで、お互いに地震の揺れや落下物から体を守ることを教えています。
もちろん、テーブルや机の大きさや形にも寄りますが、日本の会議室のテーブルなどは、大人4人が入るのは精一杯でも、子どもの場合は6〜8名入れることもあり、足首を持つことを教えておくといいかもしれないですね。
アメリカの赤十字でPreparedness & Resiliency Manager(防災&復興マネージャー)として活躍している Hilary Anderson(ヒラリー・アンダーソン)氏の講演は、全米のインストラクターのなかで「なぜそうするのか?」ということをもっともわかりやすく教えている指導者として定評があります。
「American Red Cross Prepare U」 (出典:Youtube)
ヒラリー・アンダーソン氏は、防災教育を行う場合に、なぜその行為を行った方が良いのかということを出来るだけわかりやすく伝えることで、そのコンセプトが伝わり、机や椅子がなくても、その場の状況に応じて顔と首、内臓などを守る方法や場所を自ら判断させることを勧めています。
過去の実際の大地震が起こった瞬間を体験した人たちは、まったく動くことも出来ず、机やテーブルの椅子の下になど入れるとは思わないでしょう。また、突然の大きな揺れでパニック状態となり、体が動かなかった方が多いとも聞きます。
もちろん、必ず突然の大きな揺れの時点で「Drop(伏せろ)」「Cover(守れ)」「Hold on(掴まれ)」を行えるわけではないと思いますが、余震やそのあとの続震時に体を守り続ける術として知っておくといいというスタンスで教えてもいいのではないか?と思います。
そもそも、アメリカで作られた「Drop(伏せろ)」「Cover(守れ)」「Hold on(掴まれ)」は、戦地でのさまざまな爆発や銃撃戦の訓練などで使われてきたミリタリーのコンセプトで、地震対応のために作られたのではないと言われています。
そういう意味では、爆弾テロに遭遇した時や、北朝鮮からのミサイルが飛んできて着弾するようなときにもこのコンセプトは使えるのかも知れません。ただ、ミサイルが着弾するようなときには耐火建物内の厚いコンクリートで囲まれた場所や地下などへ逃げ込んだりした方が、被災を免れる可能性は高くなるでしょう。
結果的に「顔と首を守る」ために「頭を守る」ことを教えるだけでも十分かも知れないが、やはり、その理由を伝えた方が理解を得やすいと思います。
ヒラリー・アンダーソン氏のレクチャーを聞いていると、防災教育や危機管理指導者は、同じ目的を伝えるにも一問一答式の教え方ではなく、受講者に応じて、いかにわかりやすく、どれだけバラエティーのある教え方ができるかが力の見せ所ではないかと深く感じます。まだまだ、学ぶことは多いですね。
それでは、また。
(了)
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