IBウイルスは病型でも変異が起きる

ところで、IBウイルスには、鶏の呼吸器で旺盛に増殖して強い呼吸器症状を起こす(呼吸器病型)ウイルスと、呼吸器で増殖するが腎臓で旺盛に増殖し腎炎を起こす致死性の高い(腎炎型)ウイルスが存在します。筆者は、IBウイルスの病型を変えることは可能と考え、以下の実験を行いました。

すなわち、呼吸器病型のIBウイルスを腎炎型のIBウイルスに変化させ、逆に腎炎型のウイルスを呼吸器病型に変えるという試みです。野外では、このような変異が起きているのではないかと考えたのです。

実験方法としては、アメリカで分離された呼吸器病型ウイルスConnecticut-A5968(A5968)株をヒナの総排泄腔(鳥類では肛門と尿道口が一つになっています)に接種し、数日後にそのヒナから腎臓を摘出して乳剤を作成し、その乳剤を別のヒナの総排泄腔に接種するものです。この方法を10回繰り返すことによりウイルスを継代しました。

写真を拡大 [図4]IBV Connecticut-A5968親株あるいは継代株総排泄腔接種群のヒナにおける呼吸器および腎臓からのウイルス回収

逆に筆者たちが分離した腎炎型ウイルス鹿児島―34株を気管内接種でヒナに感染させ、数日後に肺と気管を摘出し、乳剤を作成し、別のヒナの気管内に接種するという実験を行いました。その方法でのウイルス感染を10回繰り返しました。なお、後者の実験では呼吸器病型ウイルスとして筆者たちが野外例から分離した鳥取-2株を使用しています。

写真を拡大 [表2]気管継代野外分離株の病原性

その結果、IBウイルスの病型は変わりました。すなわち、呼吸器病型ウイルスから腎炎型ウイルスへ[図4]、腎炎型ウイルスから呼吸器病型ウイルスに変わったのです[表2]。

この実験では、さらに興味深い実験データが得られています。上記の2株のIBウイルスが増殖した呼吸器と腎臓から回収されたそれぞれのウイルスの抗原性の比較も行ったのですが、同一鶏個体の呼吸器と腎臓から回収されたウイルスの抗原性は、同じウイルス株であるにもかかわらず、明らかな違いが認められました[図5]。

写真を拡大 [図5]気管内継代を繰り返しているIBウイルス鳥取-2株の呼吸器および腎臓から回収されたウイルスの抗原性

すなわち、呼吸器で増殖したウイルスとは別の性質を持ったウイルスが腎臓で増殖していたのです。