2020/05/26
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
パンデミック後の課題
しかしながらパンデミック後に予想される変化は、必ずしも良い方向ばかりではない。図3はパンデミック後に懸念されることを尋ねた結果であり、63.4%の組織が「財務面の不安定さ」と回答している。また順位は下の方になるが、「破産」(insolvency)を懸念しているという回答も9.3%ある。パンデミックの影響による経済活動の停滞に対する政府の対策状況は各国・地域によって異なるが、いずれにしても多くの組織が財務的に重大な影響を受けており、これをいかに建て直していくかが懸念されていることが、改めて分かる結果となっている。

「従業員の士気(morale)の低下」(注5)が45.0%で2位となっているが、これは従来紹介してきたBCIによる一連の報告書(注2および注3)で継続的に指摘されている、ロックダウン期間中の従業員のメンタルヘルスと通じるものがある。「有能な人材(talent)を失うこと」が36.0%で4位となっているが、これに関して本報告書では、従業員がパンデミック期間中の自社の対応に不満を抱いた場合(特に競合他社の方が対応の仕方が良かった場合)に、これが転職の動機になり得ることや、パンデミック収束後の就労環境の変化などによって、人材の流動化が進む可能性などが指摘されている。もともと人材の流動性が比較的低い日本において、このような影響がどのくらい顕在化するかは、今後注目すべき観点かもしれない。
また、「新たな働き方によって自社の製品やサービスの需要が減る」(38.2%)、「顧客の疲弊、消耗(attrition)」(30.2%)、「パンデミック期間中における顧客の喪失」(17.2%)など、ビジネス環境が厳しくなる方向の懸念が挙げられており、前述の財務面の懸念と合わせて、パンデミック収束後に組織を生存させ復活させていくために、多くの課題があることを再認識させられる。
本報告書はこれまで紹介してきたBCIによる一連の報告書と比べてボリュームが多いが、パンデミック後の事業活動において考慮すべき観点や、今後再び直面するであろう第2波、第3波のパンデミックに備える上での教訓など、得られるものも多いと思われる。今の時期に読む価値のある報告書としてお勧めしたい。
■ 報告書本文の入手先(PDF 68ページ/約2.1MB)
https://www.thebci.org/resource/bci-coronavirus---a-pandemic-response-2020.html
注1)BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に9000名以上の会員を擁する。https://www.thebci.org/
注2)第1回〜第4回の調査結果については、それぞれ次の通り紹介させていただいた。
第93回:海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness
https://www.risktaisaku.com/articles/-/27124
第95回:海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況【続報】
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness 2nd Edition
https://www.risktaisaku.com/articles/-/28441
第97回:海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況【第3報】
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness 3rd Edition
https://www.risktaisaku.com/articles/-/29855
第99回: 海外企業における新型コロナウイルスへの対応状況【第4報】
BCI / Coronavirus Organizational Preparedness 4th Edition
https://www.risktaisaku.com/articles/-/31463
注3)第5回の調査結果は下記リンク先からダウンロードできる。無償配布されているが、BCI会員でない方はメールアドレスなどをウェブサイト上で登録していただく必要があるので、ご了承いただきたい。
https://www.thebci.org/resource/bci-coronavirus-organizational-preparedness-report---5th-edition-.html
注4)それぞれの計画のタイプの中で「Yes」と回答された結果が並べられているので、この図における合計が100%にならないことにご注意いただきたい。
注5)釈迦に説法ではあろうが、道徳・倫理的な意味のmoralと混同しないよう注意されたい。
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方