訓練の手法 
2010年の日本銀行金融機構局のレポートでは、ストリートワイド訓練の典型的な実施手法を①被災シナリオの策定、②被災シナリオの伝達、③社内シミュレーションによる自社計画の実効性の確認、④参加各社の自社対応についての回答、⑤訓練終了後の問題点の整理の5つの段階から解説している。 

このうち、①被災シナリオ策定では、あらかじめ数カ月間の時間をかけて、被災時に生じ得る社会経済情勢の変化や関係業界の対応を含めて現実的なシナリオを策定する。BCP発動の前提として、ライフライン企業や金融を支えるインフラ企業、関連企業などが被災時にどのような対応をする可能性が高いかについての情報も具体的に聴取するとした。 

②の被災シナリオの伝達は、訓練が開始されてから、WEBやメールを通して、参加各社に伝達する。③の社内シミュレーションによる自社計画の実効性の確認では、その被災シナリオに対して、各参加機関が自社の業務継続計画に即してどのような対応をとるか、それぞれシミュレーションを行い、依存関係にある他社の対応との整合性や自社計画の実効性も確認する。 

 

④の参加各社の自社対応についての回答は、あらかじめ決められた時限までに組織としての対応を回答する。各社の対応結果は、訓練事務局が集計し、業界全体レベルでどのような事態が生ずるかを認識して、参加各社に新たなシナリオとともにフィードバックする。 

実際の訓練は、②~④の作業を繰り返しながら、一定期間における業界全体の対応レベルを確認していくことになる。当然、新型インフルエンザなどは数日~数カ月の長期間にわたる業界の対応を検証することになるし、テロやサイバー攻撃を想定した場合は、数時間~1日程度の対応を検証することになる。

⑤の訓練終了時の問題の整理は、訓練結果から判明した問題点を整理し、その後、問題の内容に応じて各社、もしくは業界全体で解決の検討を進めていく。

日本におけるストリートワイド訓練 
国内におけるストリートワイド訓練が最初に実施されたのは、おそらく2009年2月18日に、日本銀行が主催した金融高度化セミナーだろう。新型インフルエンザの対応について、ステージ上で金融機関と現金輸送会社がパネル討議形式で、事前に作成した想定シナリオに基づき、具体的な対応策の策定にあたっての留意点や、相互依存関係の中での実効性の検証などを行った。当時、日本銀行金融機構局企画役で同セミナーを企画した大山陽久氏(現・鳥取事務所長)は、現金輸送業者も含めて対応を確認したことで「実際にパンデミックが起きれば、運送会社は現金だけを運ぶわけでなく、他にも医療体制に関わるワクチンや抗ウイルス薬など、緊急に運ばなくてはいけないものがたくさんある一方で、現金輸送には警備業法に基づく警備資格を有する警備員が担当しなくてはならないため、応援体制を工夫しても、感染が拡大してくれば、現金輸送に関わる労働力の大幅な減少は避けられないことが判明した」と話している。その結果を踏まえれば、「金融機関は、事前に手元現金を積み増しておくとか、流行期間中の現金輸送について金種や配送先を事前に優先順位付けしておき、それに基づき絞り込むなどの準備が必要になることなども議論された」という。

その後、2010年11月と2012年12月には全国銀行協会がそれぞれ新型インフルエンザと首都直下大地震を想定し訓練を実施。また、2012年5月には、国内大手証券会社3社と、野村総研が、証券界でのストリートワイド訓練の実現に向けた課題の算出・整理を目的として「プレ・ストリートワイド訓練」を実施している。 

また地方でも、2013年には盛岡市に本店を置く東北の3行と、日本銀行盛岡事務所が、地域単位としては初めてストリートワイド訓練を実施。東日本大震災クラスの大地震発生の対応について、3.11当時、3行が連携した経緯を踏まえ、実際に有効だったメール便の共同運行や、仮出張所などの共同出店などの対応策が今後も機能するかなどを検証した。 

金融機関のストリートワイド訓練は、国内でも着実に定着しつつあるが、建設業や医療・福祉機関、交通機関など、業界全体での連携が求められる分野はまだまだある。今後、個別企業間の連携から、業界全体の連携へと、取り組みが進むことを期待したい。