2017/08/07
安心、それが最大の敵だ

最強のMPレーダー導入
国交省は2010年、新たに「MP(マルチパラメーター)レーダー」(2種類の電波を送受信)を導入し、「XRAIN」(高性能レーダー雨量計ネットワーク)と呼ぶネットワークを結んだ。従来、使用している電波は波長5cmの「Cバンド」だが、観測範囲が狭いもののアンテナを小型化できる波長3cmの「Xバンド」を使い、都市部を中心に全国に39基を整備した。
それまで地面に対して水平に振動する電波のみを使っていたが、MPレーダーは垂直に振動する電波も同時に送受信する。地上雨量計でデータを補正しなくても済むほか、250m四方ごとのデータを観測から1~2分後に1分間隔で配信できる。「精度良い雨量の推定と迅速なデータ配信という2つの課題が同時に解決した」と評価が極めて高い。
民間気象会社だけではなく、インターネットで誰でもすぐに観測結果を閲覧でき、防災面でのメリットは大きい。国交省は沖縄を含めて26基全てをMPレーダーにし、ほぼ全国を網羅することを目指している。国総研によると、今後は1.CバンドMPレーダーとXバンドMPバンドレーダーを効果的に組み合わせることによる自治体や一般への効果的な防災・減災情報を提供する手法の確立2.洪水予報を含む河川・ダムの計画・管理への高度利用手法の確立・検証3.冬季・豪雪地域での降雪量観測の一層の精度向上-などが求められるという。
<レーダー雨量計開発50年・略年史>
・1966年:赤城山(群馬県)、田端(東京都)に設置されたXバンドレーダーにより研究開始
・1976年:現業用Cバンドレーダー雨量計初号機(赤城山)の運用開始。(利根川流域の雨量監観測を中心とする)
・1982年:長崎豪雨(死者・行方不明者299人)が発生
・1986年:自治体へのCバンドレーダー雨量情報の配信開始
・2001年:Cバンドレーダー雨量情報の一般配信開始(一般のアクセスが可能となる)
・2008年:局地的大雨(ゲリラ豪雨)による被害が各地で相次いで発生。XバンドMPレーダー雨量計の実用化を開始
・2010年:XバンドMPレーダー雨量計ネットワーク「XRAIN」の試行運用開始
・2012年:CバンドMPレーダー雨量計の実用化検討開始
・2016年:CバンドMPレーダー雨量計、XバンドMP雨量計を合成し、配信エリアを拡大したXRAINの試行運用開始。(研究開始より50年、画期的成果)。
※Cバンドレーダー雨量計とは:日本全国をカバー、波長約5cm(Cバンド)の水平に振動する電波を発射し、半径300kmの範囲を安定的に観測、機器更新に合わせて、垂直に振動する電波も発射できる二重偏波(MP)化が進められている。配信遅れ5~10分。全国26基。
※XバンドMPレーダー雨量計とは:主に人口・資産が集中する都市部をカバー、波長約3cmの水平と垂直に振動する2種類の電波を発射し、半径80kmの範囲を高精度、高頻度に観測。配信遅れ1~2分。全国に39基。
河川氾濫危険度の見える化
洪水予報に関する国総研の独創的研究を紹介する。国総研は次年度(2018年度)をめどに、雨量や河川水位の観測データを、氾濫の切迫性や被害予測といった実用情報に還元し、視覚化する(見える化する)システムを開発する方針だ。国内では近年、茨城県常総市で鬼怒川の堤防が決壊し、大きな被害が出た2015年9月の関東・東北豪雨や2016年8月に起きた北海道・空知川の大洪水など、各地で河川氾濫が相次いでいる(以下、国総研論文や「読売新聞」5月3日付記事を参考にする)。
現在、主要河川では上流から下流までに点在する水位観測所のデータを常時発表しているが、常総市では多くの住民が逃げ遅れ、ヘリで約4000人も救出されるなど、洪水による水位上昇の情報が早めの避難に結びついていないとの指摘もある。
国総研は、計測水位や観測雨量のデータと、堤防の高さや河床の標高などを組み合わせ、大雨の際、氾濫の恐れがある具体的な地点を即座に情報化し、浸水範囲を予測するシステムを研究開発する。同時に、こうした情報を地図上にわかりやすく表現し、氾濫の切迫度を具体的に提供する「氾濫危険度プラットフォーム(仮称)」の開発も進め、避難など住民の安全確保を目指す。<言葉の情報>よりも<視覚に訴える情報>の方が緊急時にはアピールする度合いは数段高いのである。
「研究内容の主な骨子」
<上下流連続的に精度良く河川水位を推定する方法>
・河川水位や雨量の観測データをリアルタイムで取り込み、時々刻々変化する河川水位を上下流連続的に精度良く推定する、河川水位の計算手法を2018年度までに開発する。
<避難準備に移行するための氾濫の切迫度が伝わる表現方法>
・河川水位と堤防高の関係や氾濫を生じた場合の浸水範囲の広がりなど、洪水危険度に関する情報を分かりやすく表現する方法を検討し、これを情報提供するための「氾濫危険度プラットフォーム(仮称)」を2018年度までに開発する(研究論文の引用をお許しいただいた国総研に感謝する)。
(つづく)
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方