国土地理院の果敢な挑戦~研究成果と被災地への積極対応~
日常の取り組みが発災時の迅速な対応に
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2017/08/21
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
国土地理院(茨城県つくば市)のモットーは「測る、描く、守る」である。科学誌「Newton」(ニュートン、本年6月号)の見出し<「重力値」を40年ぶりに更新。髪の毛1本分、体重が減少!?>に「何?」と引きつけられ記事に目を走らせた。同時に朝日新聞の関連記事も読んでみた。見出し<あなたの体重が髪の毛の重さほど変わります>である。
国土地理院は今年3月、日本各地で測定した基準となる「重力値」を40年ぶりに更新と発表した。変動の最も大きかった新潟県佐渡市では体重の人が約0.006グラム軽くなり、59.999994kgになるという。以下、「Newton」と朝日新聞関連記事を引用しながら、研究成果を紹介したい。
水が流れる方向は、インフラの整備や防災・減災の面で極めて重要だ。ところが、実は地表面の起伏だけで水の流れを判断することは難しい。たとえば、もし地表面が平坦であっても、重力に差があれば水は重力がより大きい方向に流れるためだ。
ニュートンの<万有引力の法則>で有名なように、すべての物体は互いに「引力」を及ぼしあっている。一方で、地球は自転しているため、回転の中止から外向きに「遠心力」もはたらいている。地球による引力と遠心力とを合わせた力が重力だ。物体は重力を受けて落下するが、実は地表面での重力の大きさは場所や時間によって変化する。たとえば、緯度によって遠心力が異なるため緯度が高いほど重力は大きくなる。そのため、質量1kgの金塊や沖縄から北海道に持っていくだけで、重さが約1gも大きくなってしまうという。
このように日本各地で重量が異なるため、国土地理院は、重力の基準(重力値)として1976年から「日本重力基準網」1975(JGSN75)を公開して来た。計量機器メーカーは、この値に基づいて体温計などの機器を補正する。物体の重さが場所によって変化する課題を克服して来た。
国土地理院では、日本各地の重力値を測定して公開する理由として、次の4点を挙げる。
1.国土地理院の重要な役割である「標高」を決定するため。
2.はかりや気圧計などの計量機器を補正するため。
3.地下構造を推定するため。
4.地殻変動などを監視するため。
同院は全国263地点の重力値を公開した。重力値を40年ぶりに更新した理由は1.JGSN75を整備した当時、日本には、重力を直接測定する機器がなかったため、海外で測定された重力値をもとにした相対的な重力値を公表していたが、この40年間に、日本でも重力の直接測定が可能になったこと2.東日本大震災などの大地震が発生し、重力が大きく変化した地域が出てきたこと3.重力を高精度に測定できる機器の登場により、高精度な重力値へのニーズが高まったこと
大半の地点で以前の重力値と比べて減少したが、大震災で地盤が沈んだ東北地方など一部で増えたところもある。日常生活には影響はないが、精密な計量や標高の決定、活断層調査や地下資源探査などで活用される。興味尽きない研究成果である。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方