熊本地震の地殻変動(提供:国土地理院)

「重力値」を40年ぶりに更新

国土地理院(茨城県つくば市)のモットーは「測る、描く、守る」である。科学誌「Newton」(ニュートン、本年6月号)の見出し<「重力値」を40年ぶりに更新。髪の毛1本分、体重が減少!?>に「何?」と引きつけられ記事に目を走らせた。同時に朝日新聞の関連記事も読んでみた。見出し<あなたの体重が髪の毛の重さほど変わります>である。

国土地理院は今年3月、日本各地で測定した基準となる「重力値」を40年ぶりに更新と発表した。変動の最も大きかった新潟県佐渡市では体重の人が約0.006グラム軽くなり、59.999994kgになるという。以下、「Newton」と朝日新聞関連記事を引用しながら、研究成果を紹介したい。

水が流れる方向は、インフラの整備や防災・減災の面で極めて重要だ。ところが、実は地表面の起伏だけで水の流れを判断することは難しい。たとえば、もし地表面が平坦であっても、重力に差があれば水は重力がより大きい方向に流れるためだ。

ニュートンの<万有引力の法則>で有名なように、すべての物体は互いに「引力」を及ぼしあっている。一方で、地球は自転しているため、回転の中止から外向きに「遠心力」もはたらいている。地球による引力と遠心力とを合わせた力が重力だ。物体は重力を受けて落下するが、実は地表面での重力の大きさは場所や時間によって変化する。たとえば、緯度によって遠心力が異なるため緯度が高いほど重力は大きくなる。そのため、質量1kgの金塊や沖縄から北海道に持っていくだけで、重さが約1gも大きくなってしまうという。

つくば市の国土地理院敷地内にある電子基準点(提供:高崎氏)

このように日本各地で重量が異なるため、国土地理院は、重力の基準(重力値)として1976年から「日本重力基準網」1975(JGSN75)を公開して来た。計量機器メーカーは、この値に基づいて体温計などの機器を補正する。物体の重さが場所によって変化する課題を克服して来た。

国土地理院では、日本各地の重力値を測定して公開する理由として、次の4点を挙げる。
1.国土地理院の重要な役割である「標高」を決定するため。
2.はかりや気圧計などの計量機器を補正するため。
3.地下構造を推定するため。
4.地殻変動などを監視するため。

同院は全国263地点の重力値を公開した。重力値を40年ぶりに更新した理由は1.JGSN75を整備した当時、日本には、重力を直接測定する機器がなかったため、海外で測定された重力値をもとにした相対的な重力値を公表していたが、この40年間に、日本でも重力の直接測定が可能になったこと2.東日本大震災などの大地震が発生し、重力が大きく変化した地域が出てきたこと3.重力を高精度に測定できる機器の登場により、高精度な重力値へのニーズが高まったこと

大半の地点で以前の重力値と比べて減少したが、大震災で地盤が沈んだ東北地方など一部で増えたところもある。日常生活には影響はないが、精密な計量や標高の決定、活断層調査や地下資源探査などで活用される。興味尽きない研究成果である。