2013/03/25
事例から学ぶ
先進事例2
1日100件の危機情報を配信
グループ内で40万件のアクセス
日立製作所
世界各国に事業拠点を持つ日立製作所では、早くから海外における危機管理体制を整備してきた。リスク対策部が中心となり、1日80~100件もの危機管理に関する情報をイントラネット上のホームページで配信するなど、社員の意識啓発に力を入れている。来年3月をめどに、世界の主な事業拠点についてBCPの策定も進めている。
日立製作所には、そのグループ会社までを含め20万人を超える従業員が勤務している。世界35カ国に250拠点のほかサイトを持ち、家族を含め約8000人が海外に在住する。
同社では、1991年10月から、リスク対策部が中心となり、国内外における従業員の安全確保や事業支援を目的としたリスク対策活動に取り組んできた。その契機となったのが1991年1月に勃発した湾岸戦争だ。同社リスク対策部の小島俊郎部長は「開戦前に同社関係者25人がイラクに拘束されたこともあり、事業活動や健全な発展を脅かすリスクの発現が日常化するグローバルな背景を踏まえて専門部門を立ち上げた」とその経緯を説明する。
1992年4月には、日立グループ各社がリスク対策担当者をリスク対策部に登録して、グループ一丸となった危機管理体制を構築。現在、リスク対策担当責任者にはグループ全体で500人が任命されている。さらに、同年7月には「日立グループリスク対策活動実施要領」を制定して本格的な活動を開始した。
リスク対策部が管轄するリスクは「自然災害」、「政治紛争」、「犯罪行為」、「自己リスク」の大きく4つに分類される。自己リスクというのは、企業活動に影響を及ぼすようなもの全般で、フィジカルな脅威について対策する。
これらのリスクが顕在化した場合には社長を最高責任者とする緊急対策本部(本部長:副社長、事務局:リスク対策部)を設置し、執行役員や関係部門の対策要員を招集して対応することになっている。対策本部で決定された事項は、各リスク対策担当責任者宛にメールとファックスで確実に伝えられ、同時に緊急情報については、コーポレートのイントラネット上に開設されている危機管理専門のホームページにも掲載される。
各リスク対策担当責任者は、対策本部からの指示を、それぞれが担当する事業所や工場、グループ会社に伝え、最終的に末端の従業員まで情報が行き届く。
こうした一連の流れは、基本的には、国内でも海外でも同じだ。小島部長は、「リスク対策の取り組みについて、基本的な考え方と対策の原則は、国内外とも共通している。日立グループは、人命尊重を第一に、トップに直結したシンプルな組織で情報を一元化して、必要な情報が、必要な人間に、必要なタイミングで入るようにして、あらゆるステークホルダーが納得するリスク対策に注力している」と語る。
海外におけるリスク対策については、テロや政治情勢などハイリスクな国や地域でのプロジェクトも多いことから、特に従業員への意識啓発や、医療面での支援、事前調査などに力を入れている。
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