大規模火災において、数十名から数百人の消防士が使う空気呼吸器のボンベを交換する必要がある場合、どうやったら早く、安全に交換できるのか?

 まずは、下のビデオを観ていただきたい。



「Replacing Empty Bottle on SCBA In Less than 5 Seconds」(出典:Bulkitup409/Youtube)

このテクニックは、空気呼吸器のメーカーにもよると思うが、ワンタッチで減圧弁とボンベの連結部を迅速に接続できると、現場内での緊急脱出時にも活用できそうだ。

特に高層ビルでの火災では、火点階の直下、または2階下に交換ボンベを集結するエアステーションを設けることが多いと思う。大規模化学工場など、エアステーションまで戻ってくる時間がない場合は、複数のボンベを立てに入れて運べるボンベワゴンに予備ボンベを積んでおくと早く交換できる。条件にもよるが、バディーシステムにより現場でエアの交換が可能だと思う。


建物構造が複雑な工場や倉庫などの火災の場合、隊員2人に付き1本のボンベを持参できれば、活動中のエア切れなどの最悪の条件の場合でも、バディーのどちらかの残圧をシェアし、下のビデオのようにボンベによるバディーブリージングを行いながら、新しいボンベに交換すれば無事に脱出できると思う。



「The FireFighter-Fit Buddy Breathing Cylinder Switchover」(出典: FitFireFighters/Youtube)

なお、工場や倉庫などの屋根が倒壊する危険があるなど、緊急脱出が必要な場合は、エアを使い切ったボンベは持たずに置いていき、活動終了後に取りに来る方が安全な場合が多い。命と資機材は置き換えられない。

下のビデオはどうやってスキューバダイビング用のボンベが作られているのかを説明したビデオ。もし、複数の救助隊が同じ現場内で活動する場合、ボンベの頭部分など、どこか一部を色分けすることで容易に小隊の識別ができると思う。4:25くらいを参照。



「How Its Made Scuba Tanks」(出典:How It’s Made/Youtube)

色分けする場合に高圧ガス容器の色は、高圧ガス保安法の省令、容器保安規則の第十条第一号に決まっているため、下記の色以外を使った方がよいだろう。

高圧ガスの種類    容器の塗色区分

酸素ガス    黒色
水素ガス    赤色
液化炭酸ガス    緑色
液化アンモニア    白色
液化塩素    黄色
アセチレンガス    かつ色
圧縮水素自動車燃料装置用容器(水素ガスを充てんした容器に限る)    特に定めない
圧縮天然ガス自動車燃料装置用容器    
液化石油ガスを充てんするための容器    
その他の種類の高圧ガスを充てんする容器のうち着色加工していないアルミニウム製、アルミニウム合金製及びステンレス鋼製の容器    塗らない
その他の種類の高圧ガス    ねずみ色


また、上記の色分けを表にしたものを引用する省令の条文は下記の通り。

(表示の方式)
第十条  法第四十六条第一項 の規定により表示をしようとする者(当該容器を譲渡することがあらかじめ明らかな場合における容器の製造又は輸入をした者を除く。)は、次の各号に掲げるところに従つて行わなければならない。

一  次の表の上欄に掲げる高圧ガスの種類に応じて、それぞれ同表の下欄に掲げる塗色をその容器の外面(断熱材で被覆してある容器にあつては、その断熱材の外面。次号及び第三号において同じ。)の見やすい箇所に、容器の表面積の二分の一以上について行うものとする。ただし、同表中で規定する水素ガスを充てんする容器のうち圧縮水素自動車燃料装置用容器及びその他の種類の高圧ガスを充てんする容器のうち着色加工していないアルミニウム製、アルミニウム合金製及びステンレス鋼製の容器、液化石油ガスを充てんするための容器並びに圧縮天然ガス自動車燃料装置用容器にあつては、この限りでない。


ということは、ボンベの半分以下を塗るのであれば、上記以外の着色、または、隊名が印刷された色の付いた蛍光反射板の使用は可能となる。

ただ、一般的にだが、ねずみ色のボディーの半分近く、あるいは一部を「青」や「ライトブルー」で塗ってあるのボンベは笑気ガスになってしまうので、青は避けた方がいいかもしれない。

また、医療ガスのボンベの色とは同じガスでも違うもの、しかも別のガスをあらわす色になっているものが多いので、この色を使うのも避けた方がいいと思う。

医療ガス等の名称    院内配管等の色

酸素ガス    緑色
麻酔ガス排除    赤色
液化炭酸ガス    橙色
亜酸化窒素(笑気ガス)    青色
治療用空気    黄色
駆動用空気    かつ色
吸引    黒色
窒素    灰色


今更言う必要もないとは思うが、ボンベの交換時や搬送時など、取り扱い時の注意を。保護枠などが装着されていない単独状態の高圧ボンベをアスファルトやコンクリート地面などに落下させてしまい、減圧弁を破損した場合などは、ボンベはミサイルのように飛ぶことがあるので注意が必要。

下記のビデオはボンベがどのように飛ぶかの実験映像。



「SCBA Cylinder Valve Without EFV」(出典:Fahmi Idris/Youtube)

いかがでしたでしょうか?

普段、使っている装備でも、視点やとらえ方を変えると様々に応用できると思います。簡単な工夫や訓練で、過酷な現場活動を安全&迅速に対応できるのがプロの消防士だと思います。

いずれは消防団にも空気呼吸器が配備される計画があると聞いていますが、新しいものが導入されたときには、頭から否定することなく、きちんと受け入れて、研究する心と知恵をお互いに養いながら、これからの消防士達を育てていく必要があると思います。

すでに10年ほど前から、シカゴのTangramという会社のパートナーが、
Bionic Mask(バイオニックマスク)という、空気呼吸器のマスクのように面体がモニターとなって残圧はもちろん、無線交信・温度や平面図的な進入ルートの表示、センサー付き手袋に情報を映し出したり、退路を示したりできるなど、見る方向によって異なる情報などを得られるような商品も開発しています。ただ、価格は面体一つで日本円にして約55万円。。

下記で初期モデルを見ることができます。



「The future of firefighting - A HMD-AR UI concept for first responders」(出典:Joseph Juhnke/Youtube)

下のようなデザインもあります。


 かっこいいですよね。

みなさんも新しい消防装備を考え、実現してみませんか?

いつか、機器開発ワークショップの手法についても書きたいと思っていますので、興味がある方はお楽しみに!

(了)


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