EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

今回の内容は、アメリカの消防団向けに作られた教育ビデオである。各ポイントごとに説明されていてとてもわかりやすいため、新入隊員の教育に参考になると思い、ご紹介させていただく。

ただ、常備消防のベテラン隊員の方々にとっては、20年以上前から行われている方法なので、特に珍しくないかもしれない。また、普段から救急隊員と救助隊員の連携訓練でもよく行われている手法だと思う。

1995年から1997年に掛けて、『近代消防』(近代消防社刊)に「アメリカEMTマニュアル」として、私がニューヨークで救急隊員として学んだことを連載していたときにもこの内容を文章と写真で紹介している。

KEDの装着法やヘルメットの脱がせ方などは『近代消防』1995年6月号で、「アメリカEMT活動マニュアル(1) (国際消防情報協会 / p98~101)」を最初に連載で紹介した。

■『近代消防』1995年6月号/(国立国会図書館デジタルコレクション )
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2652673

(※同じ号に国際消防情報協会企画調査員として34カ国の消防を視察調査した際に書いた「海の向こうの消防事情:ドナウに響く音色とオーストリア消防 / p91~97」も寄稿している)

この方法は、訓練すれば消防団員や自衛消防隊員も簡単に行うことができ、大地震の際に家屋の下敷きになった人を助け出す場合や、頸椎(けいつい)や脊柱(せきずい)損傷の疑いがある場合にも十分に有効活用できると思う。ポイントごとにコンセプトさえ学べば、道具のあるなしではなく、応用して使えるテクニックである。

はじめに、1台の1要救助者の交通事故の場合、到着後、約10分以内に救出するのが目安になっているが、救急車に搬送するまでの手順についてご紹介する。



EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

このビデオの前提は、交通事故を起こした運転手の男性をシートから、バックボード、ストレッチャーに移すまでの手順を4名の隊員を使って説明している。

頸椎保護の手順について

① 隊員A(リーダー)は、要救助者の見える範囲の前方から近づき、自己紹介をしながら、頸椎保護を行うことを告げる。
「○○消防署の○○です。今から頸椎保護を行います。後方隊員の○○が引き継ぎます」

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

② 隊員Bは要救助者後方に位置し、両手を大きく使って、頭部を保護する。
「○○です。頸椎保護を交代します」
※映像チェック:頸椎保護をしている指の位置と肘の角度を確認。
実際の事故状況にもよるが、できる限り、要救助者の真後ろに位置する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

③ 隊員Aは、要救助者に指を握ってもらい、要救助者のCMSチェック(CMS :Circulation/循環, Motor/運動神経, Sensory/感覚)を行う。
「指を握ってみてください。指を動かしてみてください。(要救助者の手を片方ずつ軽く叩きながら)感じますか?」と要救助者に危機ながら各動作を行う。
※隊員Aは要救助者の各反応をチェックした後、「反応良し」等、他の隊員に反応の結果を聞こえるように告げる。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)


④ 隊員Aは続いて、両方の橈骨動脈(とうこつどうみゃく)をチェックする。
「脈を診ますね」
※触れれば2秒くらいで十分。時間をかけすぎないこと。
※隊員Aは要救助者の動脈をチェックした後、「脈良し」等、触診結果を他の隊員に聞こえるように告げる。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑤ 隊員Aは続いて、足のCMSチェックを行う。
「(上から軽く押さえながら)つま先を挙げてみてください」
「(下から軽く上げながら)つま先を下げてみてください」
「(軽くつま先を叩きながら)感じますか?」

※隊員Aは要救助者の各反応をチェックした後、「反応良し」等、他の隊員に聞こえるように告げる。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑥ 隊員Aは続いて、足背動脈を触診する。
※足背動脈が触れない場合は、靴を脱がせ、内側のくるぶしの下あたりの後脛骨動脈の触知も行う。足背動脈よりも上部の血管が詰まると、当然、足背動脈は触知できなくなる。
※隊員Aは要救助者の動脈をチェックした後、「脈良し」等、触診結果を他の隊員に聞こえるように告げる。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑦ 隊員Aは要救助者に隊員Cが頸椎カラーを装着することを告げる
「今から、首を固定するために頸椎カラーを付けますね」
※隊員Aは手際よくカラーのサイズ調整を行い、隊員3名で協力してカラーを装着する。可能であれば、隊員Cが最初から目分量で頸椎カラーのサイズを選択、または、調整を行っておくと早い。
※隊員Bはカラー装着時に確保している指が邪魔にならないように動かしながらもしっかりと頸椎を保護する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑧ 隊員AはKED(Kendrick Extrication Device)と呼ばれる脊柱保護用具を装着するため、シートと背中の間にスペースを作るために要救助者の両手を肩の高さくらいまでにゆっくりと挙げてもらうか、ハンドル上部を軽く持ってもらい、3人で協力して、頸椎を保護しながら要救助者を前に傾ける。
「今からカウント3で少し前に傾けますね。カウント1、2、3。」
「(背部を観察して)背部よし」
「痛くないですか?」

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑨ 要救助者に背筋を伸ばしてもらい、隊員3名で協力してKEDのベルトを裁きながら背中から差し込み、背中にベルクロで止められた腰部固定用の2本のベルトを大腿部を通して前に出し、脊柱を挟んだ状態になったら、タイミングを合わせて要救助者をシートに戻し、各ベルトを装着する。
「今からカウント3でシートに少し後ろに倒しますね。カウント1、2、3」
※要救助者をシートに戻す前に背部の腰部固定用ベルトを外すし、両大腿部から両膝の下を通すことを忘れないこと。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑩ベルトの長さをある程度調整し、上からベルトを閉めながらクリップを赤、黄、緑の順で止めていく。3つのクリップを装着し、ベルトをしめて緩みのない状態にしたら、要救助者に深呼吸してもらい、息を吸った状態で止めてもらい、締まり具合を調整する。
「今から、上からベルトを締めながら固定していきますので、痛みがあったら言ってくださいね。」
※ベルトが長いため、余ったベルトは邪魔にならないように裁くこと。
※ベルトを閉めすぎないこと。
 

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑪腰部固定用のベルトを膝側から左右にスライドさせながら、要救助者に痛みを確認し、ベルトの余裕を取って白いクリップに固定する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑫すべてのストラップとクリップの装着状況を再確認する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑬テープによる頭部の固定、額と下顎から後頭部に掛けて2カ所の固定を行う。
「テープで頭を固定します。痛いときには言ってください」
※閉めすぎないことと素早く行うこと。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑭再度、CMSチェック(CMS :Circulation/循環, Motor/運動神経, Sensory/感覚)を行う。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑮隊員Dがストレッチャーにバックボードを載せ、足側を要救助者の真横に付ける。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑯3人で要救助者を持ち上げて、バックボードの足側を要救助者の臀部下に差し込む。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑰隊員Aは要救助者の頭部を固定し、4名で協力して要救助者をバックボードへ、頸部と体がひねらないようにゆっくりと倒す。
※要救助者の足がバックボードから落ちないように補助する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑱要救助者の腕は前で軽く組んでもらい。隊員全員で協力し、要救助者をバックボードの上部まで滑らせる。
※頸椎、腰部の固定、足の固定補助を行ったままスライドさせる。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑲バックボードをストレッチャーにバランス良く載せる。
※必ず、両サイドに同じ数の隊員が配置し、傾きやふらつきにより要救助者の落下に注意する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

⑳腰部固定ベルトを外して足を伸ばしてもらう。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

㉑バックボード用固定ベルトを用いて、バランス良くバックボードに要救助者を固定する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

㉒頭部固定用枕を要救助者の頭部にあてがってテープで額部と下顎から枕を固定する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

㉓再度、CMSチェック(CMS :Circulation/循環, Motor/運動神経, Sensory/感覚)を行う。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

㉔ストレッチャーの固定用ベルトでバックボードを固定し、保護柵を上げ、走行中の振動による落下を予防する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

㉕救急車内へ搬送する。

EMT Training – Extrication/Fairfax County Volunteer Fire and Rescue Association(出典:Youtube)

以上、KEDの装着法については、いくつか違うバージョンや隊によってスピードや手法にこだわりがありますが、基本的には今回の流れが一般的なスタイルだと思います。

作業が多いため最初は時間がかかると思いますが、各隊員が同じ時間内にそれぞれ作業を進行し、要領を得ていけば、10分もかからないと思います。

いかがでしたか?

実際の現場では要救助者の観察結果によって、これらの作業プラス「輸液の準備」「酸素投与」「呼吸管理」「止血」「骨折の固定」などの必要な救急処置を行うかもしれませんが、どういう状況でも10分以内で救急車内に搬送できるように訓練することが望ましいと言われています。

通常このような事故対応は救急救命士ですが、救助隊員である方や元救助隊員で、今は救急救命士である方などが対応することは多いと思います。PA出場でサポートする消防士達、また、いずれは消防団員も頸椎保護と頸椎カラーでの頭部固定ができるようになっておくと、これから起こり得る大規模災害時の要救助者救助において役立つと思います。

Let’s move on!

それでは、また。


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
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