EUでは、米国と違う考え方でセキュリティ体制を構築しています(photo by Fricker)

先月は、米国の運輸保安庁(Transportation Security Administration: TSA)が他国へ及ぼしている影響とその強大なパワーの限界について説明しました。今月は、米国とは一線を画したセキュリティを実施しているEUについてお話しします。

EU流の航空セキュリティ体制

 

ヨーロッパやアジアの大空港は、旅客の利便性を考慮したサービスと安全性を担保したセキュリティの両方をバランスよく併せ持つ空港運営を目指しています。人々からテロの記憶が薄れるにつれ、旅客の視点に立ったサービスも空港運営において必須の時代がやってきました。

航空保安に対する人々の意識の変化を敏感に察知し、搭乗旅客だけではなく空港を利用する人々全員へのサービスの充実を図る空港が増え、米国のように保安だけを重視した空港運営は受け入れられにくくなってきています。

シンガポールのチャンギ、韓国のインチョン等アジアのハブと言える空港もサービスを重視しています。空港内の空間はストレスフリーであること、ショッピングエリアは利用客のニーズに対応していること、保安検査は可能な限りスムーズであること、旅客が移動する動線上に邪魔なものがないことなどは当然、旅客の視点で空港がデザインされています。

これらに加えてEUでは、空港に到着後、旅客は保安検査や出国審査をノンストップで通過し、航空機へ搭乗するまでまったく列に並ぶ必要がなく、旅客を煩わせること/ものが一切ない空港を目指しています。EUは米国の航空保安重視の体制から離れ、EU流の体制を構築しました。特に、以下の4項目はEU全体で力を入れて取り組んできたことです。

a. EU全体のe-airport化

空港でのチェックインやパスポートチェックといった煩わしいポイントをオートメーション化し、旅客が列を作ることなくスムーズに通過できるようにすることにより、少しでも旅客のストレスを軽減する目的で考えられた空港運営方法です。オートメーション化による人件費等のコスト削減、時間短縮、航空機の定時運行、さらには保安検査場での検査員とのトラブル軽減につながるなど運用側にもメリットがあるため、EU全体でのe-airport化を進め、さらにEU以外の国にも推進しています。

b. 保安検査機器の認証制度

EUでは、米国TSAには存在する保安検査機器の審査機関をEU内に新設し、EUの審査基準を設けて機器の開発や導入・認証試験を行うことにしました。9.11後、保安検査機器はTSA認証を受けているか否かが空港への機器導入の条件としていた国が多かったのですが、EUは独自で機器の認可制度を立ち上げ、機器の運用実証実験のための研究所を設立しました。今では、EUの認証機器であれば空港へ導入できるという条件の国も増えてきました。

c. 乗り継ぎ便への液体物持込の緩和

液体物の持ち込みが制限されるルールが制定されたことにより、免税店で購入したアルコールや香水などの液体物が、乗り継ぎ時の保安検査で没収されてしまうケースが増えました。

(出典:ICAO(国際民間航空機関)ホームページから)

これは、旅客から苦情の多い項目になっていました。EUは、トラブル防止を目指して液体物の持ち込みを緩和するためすぐに動き出しました。EU内の免税店で購入した液体物は専用の袋に入れることにし、この袋に開封痕がなければEU内の乗り継ぎに限っては当該液体物の検査を省略することができることにしました。この対応により、旅客のクレームが減ったのは言うまでもありません。

d. ワンストップセキュリティの実施

EU圏最初の搭乗国で保安検査を受ければ、EU内での乗り継ぎ時には再検査の必要がありません。旅客のストレスとなるわずらわしい荷物検査やパスポートチェックをEU内移動に限って一度で済む保安検査体制を敷いています。

安全性と利便性

航空機をハイジャックされ、本土において同時多発テロを経験した米国は、2001年のテロ以降は何よりも航空保安体制の強化を最優先にしてきました。航空機の定時運行、旅客の利便性、保安検査の時間短縮、空港内の混雑緩和など、サービスと考えられる分野ほとんどを犠牲にして航空保安だけに力を入れてきました。この強硬な米国主導のやり方に距離を置きはじめたEUは、EU共通の保安対策を策定し、EU圏の人々の航空機での往来をより自由にするために努力しています。米国依存、つまり米国の言うままだった保安検査体制から離れ、EUは旅客のための空港運営に力を入れています。今日、世界の空港では、安全性と利便性のバランスを保った運営方法が求められています。

では、日本は米国流 or EU流どちらに近い空港運営を行っているのでしょうか?また今後はどのような航空セキュリティを目指すべきでしょうか?

来月は、日本の航空セキュリティとサービスのバランスについてお話しします。ご意見・ご感想をお待ちしております。

(了)