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大気に国境はない。そのことを実感させる現象の一つに黄砂(こうさ)がある。黄砂は東アジア内陸部の乾燥地帯の砂塵が風によって運ばれる現象で、中国奥地の黄土地帯などが主な発生源である。中国西部のタクラマカン砂漠や、モンゴルのゴビ砂漠を発生源とするものも多い。季節的には4月を中心とする春が多く、黄砂は春の風物詩と言える。

遠い乾燥地帯から海を渡って飛来する黄砂は、屋外に干した洗濯物を汚したり、自動車のフロントガラスやボンネットに積もったりする厄介者だが、その程度のことで済むならば、「災害」と呼ぶほどのことはないかもしれない。しかし、時には視程(してい=見通しのきく距離)を著しく低下させて航空機の運航に影響を与えることがあり、また最近では健康への影響も指摘されていて、風物詩としてのん気に構えてばかりはいられない。今回は、黄砂のメカニズムと、黄砂に関する情報の利用について考える。

大気じん象

気象観測では、大気現象を4つ(大気水象、大気じん象、大気光象、大気電気象)に大別する。黄砂は大気じん象の一種である。じん象は「塵象」と書き、水分をほとんど含まない主として固体の粒子が大気中に存在する現象をいう。「黄砂」は日本と韓国で使われる名称で、中国では「砂塵暴」と呼ばれる。また、国際一般には「ちり煙霧」(Dust haze)と呼ばれる現象に含まれる。

図1に、国内11地点における「黄砂観測日数」と「黄砂観測のべ日数」の経年変化を示す。2000年代は黄砂観測日数の多い年が目立ったが、2011年以降は、特に多い年は出現していないように見える。気象庁は、「黄砂観測日数に変化傾向は見られず、黄砂観測のべ日数は増加している。」としている。

画像を拡大 図1 黄砂観測日数と黄砂観測のべ日数の経年変化(国内11地点の統計、気象庁による) 「黄砂観測日数」はいずれかの地点で黄砂を観測した日数(同じ日に何地点で観測しても1日として数える)、「黄砂観測のべ日数」は黄砂が観測された地点数の合計(1日に5地点で黄砂が観測された場合は5日として数える)

図2に、国内11地点の観測に基づく黄砂日数の月別平年値を示す。黄砂は春に多いことが歴然としており、最多月は4月である。

画像を拡大 図2 国内11地点の観測に基づく黄砂日数の月別平年値(資料期間1981年~2010年、気象庁による)

黄砂現象がこのようにはっきりとした季節性を見せるのは、砂塵の発生域における地表面状態と気象条件による。すなわち、春は雪氷や凍土が消えたばかりで植物は繁茂しておらず、地面が露出し、土壌は乾燥する。しかも、冬の間大陸上を支配していたシベリア高気圧に代わって、春は大陸上で温帯低気圧が発達するようになり、強風が吹きやすくなる。アジア大陸東部で発達する低気圧が春に多いことは、本連載シリーズ・7(メイストーム)で触れた。テレビの天気番組や新聞の気象欄などに掲載されている、日本列島を中心とする天気図で、春季に図の左上のほう、モンゴルや中国東北部に中心気圧1000ヘクトパスカル未満の強い低気圧が見られたら、それは大陸上での砂塵発生のサインである。