2021/04/15
事例から学ぶ

社会を支える基幹インフラは災害時でも絶つわけにいかない。最たる例がインターネットに代表される高速情報通信網だ。これが守られるか否かは、人・組織の生き残りをも左右する。だが、その役割を誰がどこで担っているかは、あまり知られていない。日本最大規模のデータセンターを保有するアット東京(本社:東京都江東区)は、ハード・ソフト両面の対策によって強靭な事業継続体制を構築。施設の耐震性や電力供給の信頼性を高めるとともに、専門性の高い社員の継続的なスキルアップと連携によって24時間365日、データセンターのノーダウンオペレーションを担っている。(本文の内容は2021年3月17日取材時点の情報に基づいています)
アット東京
本社・東京都江東区
❶ 基本方針は「ノーダウン」オペレーション
・止まることが許されないデータセンター事業はそれ自体がBCPの実践。企業全体に非常時対応やBCPの意識が浸透している
❷ 強靭なハードと継続的なソフトのアップデート
・ハードの強靱性はもちろん、ソフトも継続的にアップデート。思考訓練によって想定外に対応できる想像力と連携力を養う
❸ 創意工夫によって組織を動かす事務局の力
・訓練のコンテンツや組み立てを考えて組織を動かすのはBCP担当の醍醐味であり、やりがいのある仕事
「24時間365日ノーダウンオペレーション」――アット東京の根幹をなす基本方針だ。システムを落とさない、サービスを切らさない。「創業以来、脈々と受け継がれているわれわれの使命であり誇り。社員の意識に染み込んでいる」と、経営企画本部総務部の阿部伸太郎氏は言う。
日本最大規模のデータセンターを管理・運営する同社は、東京電力が新規事業として2000年に設立、12年にはセコムが筆頭株主となった。が、基本方針は一貫して変わらない。情報化社会の黒子として、膨大な数のサーバーを人知れず見守り続ける。

インターネットに代表される高速情報通信システムは、もはや社会を支える基幹インフラだ。平時はおろか緊急時でさえ、情報通信が途絶えた世界は想像できない。その基幹インフラを縁の下で支えるのが同社の役割。サーバーを格納するだけでなく、保守点検や監視を行って常に安定した状態を保つ。
施設の建物は当然、地盤も含め強固な構造。東京電力の変電所から直接引き入れる電力は供給信頼性が高く、サーバーの安定稼働を支える。万が一停電した場合には非常用電源に切り替え、独立運転での電力供給が可能だ。
事業自体がBCPの実践活動
「一般企業では、一時的に停電したからといって即座に死活問題になることは少ない。しかしデータセンターは許されません。『ノーダウンオペレーション』は、お客さまからの信頼そのものだからです」。技術・サービス本部通信技術担当部長兼品質担当部長の鶴岡聡之氏はそう話す。

「クラウドとの相互接続が進んできているなか、データセンターが止まったときの影響は考えるだけでも怖い。それは常に意識のなかにある」。つまり事業自体がBCPありき、というより、BCPの実践そのもの。非常用電源の起動テストや機器メンテナンス手順の見直しを日常的に行う技術社員などはまさにその体現者でもある。
「その点、日常業務自体が社員教育の場。常日頃やっていることであれば、非常時に突然できなくなるようなことはない」。だが、それでも訓練を怠らないのは、自然災害をはじめアクシデントやトラブルは常に「想定外」だからだ。
・想定外に対応できるよう個々の社員のスキルとモチベーションをアップデートする
・管理部門や営業部門を含め全社的な業務連携(のルール)が想定外にも機能するかを確認する
同社の訓練はこの2つに主眼がある。
https://www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders
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