米国史上最悪の銃乱射事件があった米国ラスベガス (画像出典:写真AC)

今年1月下旬、年間訪問者数約4300万人の経済都市ラスベガスを守るラスベガス市消防局と、警備会社G4Sラスベガス支社を訪れた。

ラスベガスと言えばストリップ通り沿いにあるマンダリンベイホテルで、昨年10月1日午後10時過ぎ(日本時間2日午後2時過ぎ)、フルオートの機関銃やライフルなど複数の銃を使った銃撃事件が発生。約59名が死亡、約527名が銃創や避難時に重軽傷を負った。

米国史上最悪の銃乱射事件であり、降り注ぐ凶弾から逃げ惑う人々の映像が日本でも毎日のように報道された。その中で、自分の体に数発の銃弾を浴びながらも勇敢に銃弾に倒れた人を安全な場所へ搬送したり、心肺蘇生をして救命した人たち、胸部の銃創を止血するなど決死の救命行動を取った消防士たちがいたことがわかった。

■ラスベガスのマンダリンベイホテルで銃乱射事件
姿勢を低くし、人が少ない方向や遮蔽物へ逃げる
http://www.risktaisaku.com/articles/-/3837

下のビデオ映像では、助かった人達が次々に銃弾に倒れた人達に止血したり、心肺蘇生法を施したり、フェンスを担架にして安全な場所へ搬送したりするなど、誰からも指示を受けず、自分たちで命を助け合う「事態救命」が行われている。

<br> 出典:MOMENTS: Las Vegas Shooting Route 91 Harvest Mandalay Bay Casino Nevada 59 Killed 10/1/2017!!! (Youtube)【注:一部、当時の生々しい映像を含みますので、閲覧は自己責任でご視聴ください】

この大規模殺傷事件の後、消防や警察、警備会社はいかにして救命率を上げるか。特にスポーツイベントやコンサートで、観客の安全を守る警備員の救命技術を高めると同時に、警備に携わる際に携帯すべき救命セットの内容について検討された。

ただ、ここまでの規模の事件が起こった場合、現場の警備員のほとんどは救命処置よりも、銃撃が継続されている間は、まず自分の身を守ること、そして犯人が弾倉を付け替えている時間などを見計らって、できるだけ多くの人達を安全な場所へ避難誘導することが優先されるとG4Sの警備訓練担当者は語っていた。

たまたま現場に居合わせた非番日の救急救命士や消防団員、警察官、軍関係者などの中には、銃弾に撃たれながらも心肺蘇生や止血を行った人もいたそうだが、後日、受けた銃弾による内臓損傷などで、職場復帰できなくなったケースもあったという。

今回の取材で、刃物による外傷、銃創、爆傷時の止血だけではなく、骨折処置、応急担架搬送時の患者の四肢の固定、さらには犯人の拘束など、幅広く救命救急処置の用途に使えるオールエイド的救急バンデージ「SWAT-T」を実際に手にとって、さまざまな使い方などを学ぶことができた。


出典:SWAT-T Instructional (Youtube)

このビデオから、特別なトレーニングを受けていない人でも、簡単に早く救急処置が行えること、練習すれば15秒ほどで装着できること、そして、四肢だけではなく、頭部や体幹部の止血や圧迫ガーゼなどの固定にも使えることがわかる。


出典:SWAT-T Instructional Video(Youtube)

何よりも他の止血・圧迫用具とSWAT-Tの大きな違いは、子供やペットにも使えるという点で、一般市民向けの救命セットに適していると言えるかもしれない。


出典:SWAT-T Orange - training video (Youtube)

■オールエイド的救急バンデージ「Swat T」
http://www.swattourniquet.com/docs/swat-t-qa.pdf

SWAT-Tの耐久性と安全性を保証するために、冷凍、沸騰、寒冷地、乾燥地帯などのさまざまな環境条件での適合性など幅広く試験している。また、200%以上のねじれを5000回転繰り返してもほとんど劣化しないなどが証明されている。

また、SWAT-Tは以前、他の止血用具のバックアップの止血帯や圧迫帯とされてきたが、今ではプライマリーの止血・圧迫帯として用いられている。

■各止血帯との医学的根拠に基づく比較データがある。
https://www.jsomonline.org/FeatureArticle/2015428Wall.pdf

ラスベガス市消防局の救急救命士はSWAT-Tの大きな特徴として、他の止血帯よりも幅が広いため、止血面積が大きいことで痛みが少ないことや止血部位と周囲のさらなる細胞ダメージが少ないこと、小さいパッケージのため携帯しやすく、ファーストレスポンダーだけではなく、その現場にたまたま居合わせた一般の人達(バイスタンダー)にも投げ渡して使ってもらうことができることなど、メリットが多いと説明していた。

今年、訪日観光客数は約3000万人が予測されており、昨年の訪日外客数をみると、中国、韓国(67万9000人、+37.3%)、シンガポール、マレーシア、インドネシア、台湾など徴兵制のある国々からの訪日が多く、何らかの軍事訓練を経験した人達もいる。彼らはテロの発災時などに迅速に人を守るトレーニングも受けているが、人を殺すトレーニングも受けている。

日本でラスベガスのホテルで起こったような大量殺傷事件が起こって欲しくはないが、今後起こった場合、もしかすると日本人に助けられるよりもさまざまな国からの訪日外国人に多くの日本人が助けられる可能性もあるのではないかということも否定できないと思う。

今更、徴兵制を求めたいとは思わないが、国民が災害や事件遭遇時、自ら身を守り、そして、お互いを守るための訓練を少しずつ、既存のさまざまな免許や資格更新時に15分、30分でもいいので義務付けしてもいいのではないか?と心から感じる。

ラスベガス市消防局のレポートについては、また後日、書かせていただきたいと思う。

(了)


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