2018/04/02
安心、それが最大の敵だ
詩人の新天地・柏への心象風景
大正14年(1925)4月、重吉は原っぱの中に創設されたばかりの千葉県立東葛飾中学(現県立東葛飾高校、県内有数の中高一貫の進学校)に英語教師として転任し、東葛飾郡千代田村柏(現柏市旭町)に住んだ。柏時代は、短い人生で終わった詩人の最昂揚期といえ、その結晶の一つとして処女詩集『秋の瞳』が刊行された。彼が生前に上梓した唯一の詩集である。詩碑(黒御影石)が東葛飾高校敷地の国道6号沿いの歩道に向かって立っている(全体の高さ1.8m)。
<原っぱ>
ずゐぶん
ひろい 原っぱだ
むしょうに あるいていくと
こころが
うつくしくなって
ひとりごとをいふのが
うれしくなる(大正14年9月「文章倶楽部」初出)
昭和初期、東葛飾地方には江戸期の小金牧をしのばせる広い原っぱが各所に残されていた。そこからは筑波山、富士山をはじめ日光連山も遠望できた。若き教師重吉はどんな「ひとりごと」を言って「うれしがった」のだろうか。
柏時代の心象風景を他の詩で確認する。
「<虫 >虫が鳴いている/ いま ないておかなければ/ もう駄目だというふうに鳴いている/しぜんと 涙をさそわれる」(「貧しき信徒」より)
「<壁>秋だ/ 草はすっかり色づいた/ 壁のところへいって/ じぶんのきもちにききいっていたい」(同上)
「<草をむしる>草をむしれば/ あたりが かるくなってくる/ わたしが/ 草をむしっているだけになってくる」(同上)
「<ねがい>きれいな気持ちでいよう/ 花のような気持ちでいよう/ 報いをもとめまい/ いちばんうつくしくなっていよう」(『信仰詩編』より)
「<妻に与う>妻よ/ わたしの命がいるなら/ わたしのいのちのためにのみおまえが/生くるときがあったら/ 妻よわたしはだまって命をすてる」(ことば)
重吉が東葛飾中学で教鞭をとったのは翌年3月までの1年間に過ぎなかった。だがこの1年間は日本の詩壇の流れに一石を投じたのであった。彼は「死の病」肺結核に冒されていた。教壇を去って神奈川県茅ケ崎の病院に入院し、病床で第2詩集『貧しき信徒』の自選を行った。昭和2年(1927)10月26日不帰の人となった。重吉は29歳8カ月、惜しみて余りある。妻とみ子は2児を抱えてまだ23歳だった。
- keyword
- 安心、それが最大の敵だ
- 八木重吉
- 茨木のり子
- 柏
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方