■中身は参加者の立場で考えてみる

例えば大地震を想定してみる。するとそこから次の3つのポイントが見えてきます。第1にしっかりと自分の身の安全を確保すること(社内・通勤・外出中など)。第2に自分の無事を会社に速やかに知らせること、このとき、会社に連絡できない事態が起こることも考えておかなくてはなりません。第3は、何らかの理由、例えば自宅や家族の被災あるいは交通機関の寸断などで出社・帰社・帰宅できない時どう対処するのか、といったことです。

少しずつ方向性が定まってきたM君は「よし、この調子」と自分を励ましました。さて次は「Plan」における目的、目標、範囲、達成方法、達成指標の設定です。

この研修の「目的」は、災害時における上記3つのポイントを参加者に理解してもらうことです。「目標」は、災害時に自分がどう判断し行動すべきかが参加者の意識に根付くこと。次の「範囲」は、研修の範囲のことです。これは大地震発生直後から24時間、いわゆる初動の範囲に限定しました。

4つ目の「達成方法」。これについては、パワーポイントを使って簡単な災害シミュレーションのストーリーを組立て、時間の経緯に沿って用意したいくつかの質問を参加者に投げかけるという方法をとることにしました。

さて最後は「達成指標」です。不測の事態に関する研修ですから「正解」を期待することはできません。むしろ自分の勝手な思い込みや、想定外の出来事にどう行動したらよいか分かない自分に気づいてもらうことが研修の成果につながります。そこでM君はレポートやアンケートを通じて集計した定量的・定性的意見や感想をもって達成指標とすることにしました。

■「Check」は参加者の感想から

新人向けのBCP教育研修はこうして実施することになりました。PDCAにおける「Do」のステップです。進行役のM君はややぎこちなさが目立ちましたが、新人社員たちの熱心さはそのぎこちなさを補って余りあるものでした。M君から問いかけられた質問に対して、中にはちゃっかりスマートフォンで検索して答えを探そうとする社員もいましたが、そんな時はM君の横にいた上司からちょっとキツイ一言が飛びます。「そこのキミ!、スマホで答えを探そうなんてダメだぞ。実際に災害が起これば待ったなしだ。まずは危機感を持って自分の頭と心で考えなさい!」。

M君たちは、研修の後で全員から研修レポートとアンケートを回収し、集計して報告書を作成しました。これが「Check」のステップです。実にさまざまな意見や感想が述べられていました。

「目からうろこでした!」「日頃何も考えていなかった自分が情けないです」「これまで世の中には必ず答えがあるものと思って生きてきた自分を反省しています。これからは心を入れ替えます」…。

しかしもちろんポジティブな回答だけではありません。研修の進め方に対するぎこちなさや、社員の感想や気づきをフォローする仕組みもほしいといった意見もありました。

最後に報告書を読んだ社長は、M君と上司に感想を述べました。「はじめてのBCP研修にしてはまずまずの成功だったようだね。この調子で次回もお願いするよ。もちろん、改善要望もあるようだから、それらも踏まえてということで。ごくろうさま!」。

M君たちは、社長のコメントを持ってPDCAサイクルの「Act」の判定としました。ひとまず今回の改善要望を加味した上で、次回の新人研修もほぼ同じ手順で実施することにしたのでした。

(了)