2018/04/26
熊本地震から2年、首長の苦悩と決断
罹災証明の調査で不満
地域住民に対して最も気を使ったのが公平性です。地震翌月には、上益城郡内の首長に集まっていただき、被災者に対する支援について、ばらつきがあると住民からは不満が出るので、同じ郡内だけでも足並みをそろえられるよう、実務者レベルの協議会を設置しました。
一方、罹災証明書の発行業務については、途中から調査方法を変えた自治体が出てきて、このことが後々まで尾を引く結果となってしまいました。他の市町村に家族や親戚、あるいは知り合いがいたりすることも多いので、市町村によって調査方法が違うと「うちはこの損壊だったが、こちらの市町村なら同程度で半壊として判定される」というような事態が起き、住民の不満が募るばかりか、担当する職員も苦労します。被災者から見て、公平に調査をするということが大切だと思います。
避難所は自主運営へ
県外自治体からの支援はとても助かりました。当町は、静岡県と福島県がカウンターパートナーだったのですが、福島は東日本大震災で被災経験があるし、静岡は以前から東海地震に向けて訓練をしてこられていて、様々なアドバイスをいただくことができました。
特に避難所運営については、ボランティアの力を借りるにせよ、行政としてしっかりサービスをしないといけないと思っていましたけれど、「避難所というのは自主運営が基本」と教えていただき、一定の時期からは避難所の中で班割りをして、自主運営をしてもらうようにしました。
夢のある復興計画へ
平成28年8月には「復興の基本方針」を打ち出して、全町民に配布をしました。少しでも希望を持てるようにしたいということで、「定住促進と企業誘致による更なる発展」についても盛り込んでいます。芝原地区では、区画整理事業について、5年で行う計画を前倒しして加速させ、大型家電量販店と商業施設を整備し、復興の象徴にしたいと考えております。また、地震後に新たな企業の誘致も決定しており、平成30年3月には操業を開始してもらう予定です。
備蓄を強化
今後の防災の強化については、町として年度計画に基づき備蓄をしていく予定です。併せて、災害から3日たてば、国やいろいろな所からの支援も届くと思うので、町民の皆さんにも、最低、水と食料について3日分は備蓄してもらうことをお願いしていこうと考えています。
また、どこの自治体も集中改革プランに合わせて職員数を相当減らしているはずですから、今後、災害があっても、支援に出す人がいないという状況が起きやすくなると思います。ですから、災害が起きた場合、どこからどういう職員を派遣するのかという体制を、国の方でしっかりと整えていただくとともに、様々な支援がしっかり行き届く仕組みも考えていくことが大切だと考えています。
荒木泰臣氏 プロフィール
■生年月日
昭和21年10月10日
■学歴
昭和44年3月 東海大学文学部卒業
■職歴
昭和44年4月 民間企業入社
昭和58年3月 嘉島町議会議員(1期)
昭和62年2月 嘉島町長就任
平成29年7月 全国町村会長就任
冒頭にも書きましたが、このインタビュー内容だけでトップの行動の是非を検証することはできません。ただし、常にトップ、あるいは危機管理担当者が考えておくべきポイントはいくつかあったと思います。ここでは、初動の心構えと、トップが持つべき責任についての私見を述べさせていただきます。※あくまで個人的なもので、検証報告書の内容とは一切関係がありません。
お金のことは心配せずに
8期連続30年近くも町長を務める荒木氏が職員に指示したという言葉は、災害対応において非常に重要なポイントを示しています。「慌てずに落ち着いて対応しなさい」ー。過去に地震を経験したことがないながらも、この言葉が出てくるということは、何をどういう優先順位でやらなくてはいけないか職員自らが分かっているし、職員に任せているという信頼があったからでしょう。その上で「お金のことは気にせず、被災された皆さんがちゃんと生活ができるように十分な対応をするように」という指示を出しています。つまり、対応で使ったお金について救助法が適用されないなど、大きな負担が発生したとしても職員の責任は問わないので、それぞれ現場の判断で思い切って被災住民のために行動をしろと指示をしているわけです。よく「すべての責任は私がとる」という言葉を聞きますが、部下からすると具体的にトップがどのような責任をとってくれるかが見えません。そして、部下として懸念する責任の1つが支出にかかわることです。
もう1点、公平性の話が出ましたが、これは非常に難しい話です。民間企業でも、例えば、被災した社員に、見舞金を払うか、社印の故郷への一時帰宅に手当をつけるかなどは統一したルールにしないと不平不満が出ます。自治体の場合、その自治体内で統一しても、隣の自治体と足並みがそろわないと、住民からしてみると身内が隣の町にいるということもあるので、わずかな距離が離れているだけで待遇が違うということになりかねません。ここは日本の災害対応において構造的な欠陥といっていいのかもしれません。
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