2018/05/11
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
親子でぜひ知って欲しい、山で迷ったときの鉄則とは?
山に入る基本として、登山届を出す、コンパスや地図、雨具、ヘッドランプなど必要装備を持つということがあります。アプリでできる登山届や山の衣類についてのまとめの過去記事はこちら。
■夏山の準備は豪雨・地震対策の集大成!アウトドアの実践的スキルを身につけよう!
http://www.risktaisaku.com/articles/-/3235
GPSで山の中でも位置がわかり、地図も印刷できるアプリ「YAMAP」も登山前に入れておきたいですね。GPSは携帯の電波が届かなくても機能しますので、遮蔽物のないところでしたら、電源さえ入っていれば自分の位置が分かります。
登山・アウトドアの新定番!YAMAP(ヤマップ)- New Logo Version (出典:Youtube)
それでも万が一道に迷ったときの鉄則があります。最近は、この鉄則すら知らないのでは?と思うケースも見受けられます。本当は学校の登山で教えて欲しかったその内容というのは、
「迷ったら引き返す」
「迷った時に沢に降りてはいけない」
というものです。おかしいなと思った時、元に戻れば正しい道に出ます。引き返すのが正解です。
人は早く家に戻りたい思いから下山したくなります。間違えたからといって、登りを戻るのは辛いのです。でも、日本の山で間違った道に入り下っていくと、多くが沢に出てしまうのです。
沢の真上には樹林がありません。道があるように開けて見えます。だから、歩きやすそうに見えます。しかし、沢はこれまたほぼ滝に出てしまうのです。断崖絶壁は、装備をもって登る場合にも技術が必要ですが、下りの方がさらに難易度が上がります。沢や滝は滑りやすく体温も奪います。道迷いの最悪の結果は、この滝による滑落です。
以上から、迷ったら引き返す、沢に下りてはいけないというのは、これを知らずに山に登ってはいけないくらいの鉄則中の鉄則です。知らなかった方はこの機会にぜひ覚えていてください!!!学校登山でも絶対教えて欲しいです。
本にある事例1のケースで遭難者は、おかしいなと思ったものの、戻るのは、「億劫だった」から、「小屋までもうすぐだろうから」と下って行きます。羽根田氏も「道迷い遭難に陥る、まさに典型的なパターンである」と記されています(以下、太字は全て「ドキュメント 道迷い遭難」(羽根田治著/山と渓谷社刊)からの引用です)。そして、やはり沢に降り滝に出てしまいます。流れに入りケガもしているので、滝に出た際には、戻ることもできない状況になっています。その時、遭難者は滝壺に飛び降りる決断をし、飛び降りてしまいます。
幸い生還された方ですが、羽根田氏は「窮地に陥ったときの人間の心理とは、えてしてそんなものだろう。自分ではよく考えてベストの選択をしたと思っているかもしれない。しかし、のっぴきならぬ状況の中で、自覚しないまま平常心は失われ、いつしか冷静な判断ができなくなっている。それが道迷い遭難の一番怖いところだと思う」と記されています。
事例5ではこのように書かれています。
「道を間違えていると知りつつも、吉田は美しい風景に誘われるようにして沢を降りていってしまう。また、下っていく方向には赤い屋根の建物が見えたという。それを武尊牧場の建物だと決めつけ、だったら方向的には間違っていないから、なんとか下っていけるのではないかと思い込んでしまった」
事例7は、「道に迷った時には沢を降りてはならない」という看板がたくさん出ているルートでそれを読みつつ、その時点では自分ごとにならず、沢に下りて進んでしまったケースです。沢に出た際、遭難者は、
「このあたりで、尾崎は「間違ったルートを来ている」ということに気づいたという。だが、引き返そうとはしなかった。ルートファインディングに自信のないササ藪に戻るよりも、テープの付いている道らしき踏み跡をたどっていった方がいいと判断したからだ。なにより、同居している母親に心配をかけたくなかった。たとえ予定のルートとは違っても、今日中に帰宅するために、下れるものなら下ってしまいたかった。このとき、自分では落ち着いて判断を下しているつもりでいた。しかし、あとから振り返ってみると、どう考えても冷静ではなかった。自覚せぬ焦りが知らず知らずのうちに冷静さを失わせていた」
とあります。
その他の事例もぜひ、本を手にとって読んでいただきたいと思っています。実際の人の行動の方が、ミステリーよりも不可解で、怖いです。それくらい、いけないとわかっていても、パニックになっているわけでもないのに、どんどん判断を狭め、悪い選択をしていってしまっています。冷静に判断したつもりでも、判断要素に入れるべき危険を要素から排除してしまっているせいで、認識が狭められ、判断にバイアスがかかってしまっているのです。
生死の差は、ただ運が良かったとしか思えないケースも多数紹介されています。山に不慣れな方達のケースではなく、慣れている方達もこの状態に陥っていきます。
災害時も、パニックにならないよう落ち着いて行動してくださいと言われます。しかし、落ち着いているつもりで、このように判断能力が低下してしまうケースに私たちはどのように対応すればいいのでしょうか?
このヒントが、本のあとがきにあります。これ以上は、ネタバレしないためにあとは読んでのお楽しみに!としたいところですが、箇条書きにだけしてお伝えします。
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