2022/01/15
事例から学ぶ

地域住宅会社の三承工業(岐阜県岐阜市、西岡徹人社長)は、災害時の自立支援に重点を置いて事業を展開。外国人顧客の防災教育から始まった取り組みは、一時的な避難施設として利用可能な庭付き住宅の提案、モデルハウスへの標準装備と周辺住民への開放、共助の仕掛けを盛り込んだまちづくり、地元の小学生を巻き込んだワークショップなどに発展し、地域社会のレジリエンスに大きな役割を果たしている。昨年は自社のBCPも策定し、いざ災害に見舞われた際の初動体制と復興支援体制を明確化した。平時のレジリエンス活動と一体でまわすことで、企業価値のさらなる向上につなげていく。
三承工業
岐阜県岐阜市
❶外国人顧客の防災教育から避難できる庭・住宅を開発
・外国人顧客への防災教育をヒントに「キャンプできる庭・住宅」を開発。アウトドアの仕掛けで災害時の自立生活を支援
❷モデルハウスを一時的な避難施設として住民に開放
・アウトドアの仕掛けをモデルハウスに標準装備し住民に開放。地域の避難所不足解消にひと役買うとともに、小学生のアイデアを盛り込んで「共助」のまちづくりにつなげる
❸自社のBCPを策定しレジリエンス活動と一体でまわす
・BCPを策定し、いざ災害に見舞われた際の初動体制と復興支援体制を明確化。平時から取り組んでいる一連のレジリエンス活動と一体でまわし、さらなる地域の安心と企業価値の向上を目指す

2018年にジャパンSDGsアワード特別賞を受賞したのに続き、昨年度はジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)の企業部門で最優秀賞、教育部門で岐阜市立柳津小学校とともに準グランプリを受賞した。「社会課題をビジネスで解決する」という企業理念を着実に実現し、多方面から評価を高めている。
同社が社会課題の一つに位置付けるのが、地域防災力の向上だ。主軸の住宅事業を通じてこれに貢献するとし、レジリエンス活動・教育に取り組み始めたのは、外国籍の顧客に対するケアがきっかけだった。
営業拠点を置く可児・美濃加茂は、大手製造業の生産施設が集積する地域。商圏内には工場などに勤める外国人が多く、日本人と結婚したり、永住許可を取得したりしてマイホームを建てる世帯が珍しくない。同社は規格型のローコスト住宅や注文住宅で年間約70棟の新築を手がけているが、うち25棟ほどが外国人だという。
住宅計画時には当然、ハザードマップの周知をはじめ、土地のリスクを顧客に説明する。だが、外国人はもとからの土地勘がないうえ、日本の防災習慣に触れていない。

「災害の怖さや危ない場所など、日本人であれば自然に教わる防災知識を知らない場合が多い。『この土地は災害リスクが高いので他を探しましょう』といった仕事上の提案はもちろん行っていましたが、外国籍の方が増えるにつれ、防災教育の必要性をあらためて感じた」と、レジリエンス事業部の伊藤有沙さんは話す。
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