キッチントークと呼ばれる、食事を作りながらの会話や一緒の食事をすることは消防士たちの心のビタミンになっている (出典:Youtube)


日本の消防では、昼食に「消防うどん」を作るのが定番だ。私も現役の頃、同じ当務の消防士から1人500円ずつ集めて、昼飯、夕飯、朝飯を昼前から買い出しに行った。天ぷらを揚げたり、モツがたっぷり入った博多モツ鍋うどんを作ったりしていた。味付けは肉うどんに近いが、ニンニクとショウガ、鷹の爪が効いていることが特徴だ。

さて、今回は世界の消防レシピについて紹介する。世界中のほとんどの消防署では、消防士が自分たちで3食作っており、食事当番になった消防士によって、得意メニューや味付けが変わる。中にはカロリーや脂肪、ビタミンなどの栄養までを考え、さらにオーガニックにもこだわっている消防士もいる。

下記のビデオでは、季節の野菜など、食材の選び方、野菜別の焼き方など、おおざっぱに見えるが早く、大量の食材が調理されていくのが見ていて楽しい。

Firehouse Cooks - Chicken Enchiladas | Allrecipes.com(出典:Youtube)

消防署で消防士達が食事を作ったり、食卓を囲んで話す場を作ることはとても大切だ。多くの消防署では、その理由を次のように語っている。

・キッチントークと呼ばれる、食事を作りながらの会話や一緒の食事をすることは、時にアドバイスや心のビタミン、新しい発見になったり、お互いが自然にキッチンセラピーを受けて、貴重なメンタルウェアネス(心の健康)の機会となっている。
・買い物に行き、レシピを考えて、人数分の食材の量を計算したり、三食楽しめるメニューの組み合わせをアレンジすることは、頭の体操になる。食事を作るプロセスは優先順位があるため、作る過程で、さまざまな職務上のストレスなども整理されていくことが多い。
・消防士の食事を作る経験は、消防学校から始まる。食材の洗い方、切り方、調理道具の使い方、包丁の研ぎ方、温度の違うメニューの取り皿への並べ方、食器の洗い方や乾いた食器の拭き方まで、18才から全ての調理の基礎を学ぶことができる。
・消防署でバーベキューなど、必要最低限の調理器具で簡単にできる屋外での調理を学ぶことで、大規模災害現場での食材調達や炊き出しを行うことができるようになる。


下記の「ファイアーハウス・キッチン」というショーは、ケンタッキー州のボウリンググリーン市が自治体の広報番組として作成していて、消防署に市長を招いて味見をしてもらったり、とてもステキな番組になっている。


Firehouse Kitchen #4 - Philly Cheesesteak(出典:Youtube)

レシピ紹介の間に新しく導入したツールの紹介や、自分たちが考案した他のツールとのコンビネーションを説明する、オンライン消防勉強会のような機会としても活用している。

また、このビデオを見ている住民に対して、「なぜ、一般住宅火災の際、消防士が屋根に登って、エンジンカッターで四角い穴を開けるのか?」について説明している。


Firehouse Kitchen S2 Ep. 11 - Lamb Chops(出典:Youtube)

このビデオで紹介されているのはQuick Step Anchor(クイック・ステップ・アンカー)という、屋根からの垂直排煙の際に使う消防士の転落予防ツール。おそらくほとんどの消防署が採用している。

■Quick Step Anchor
http://www.quickstepanchor.com

他にも、世界中でさまざまな消防レシピが紹介されていて、その見せ方にも工夫が見られる。

■下記で数千の消防キッチンビデオを見ることが出来る。
https://www.youtube.com/results?search_query=Fire+house+kitchen

私が今回、一番感心したのは下記のビデオ。消防局長の発案で、消防料理のクラスを年間計画に取り入れている。食事を作るばかりでなく、食中毒や食べ合わせの危険、さまざまな調理器具の殺菌方法、厨房の衛生を保つ方法や消防士の業務にあったレシピの考え方など、料理学校のシェフを育てているインストラクターを迎えて、ある意味とても科学的に料理を教えている。


Firehouse Cooking(出典:Youtube)

どこの国でも消防士達は、1年の3分の1、約120日を消防署で生活している。

そして世界の消防士達は、料理、洗濯、アイロン掛け、裁縫、掃除など、ほとんどの家事を消防署で身につける。

今月、日本国政府が国家公務員の兼業を正式に認める調整に入ったが、消防組織自ら、NPO法人や非政府組織(NGO)などを第3セクターで設立し、災害時の各種支援を目的とした幅広い「公益的活動」を目的とした活動を行ってもいいと思う。

非番日の消防士達は勤務終了後、そのまま署内の空いている会議室や体育館などを用いて有料の実践的な防災講習会を開いたり、防災関連資格取得講習会を開催したりすることで、地域住民向けはもちろん、企業防災、自衛消防隊の教育訓練など、さまざまな身体を動かしながら身につけることが出来る生きた防災術を有料で指導することができる。

消防士の副職については別の機会に書くとして、消防士の食事の大切さ、消防士が料理を覚えることの重要さ、そして、消防署内で料理をすることは地域社会にとって、プラスになることを感じて戴けただろうか?

最後に、サニー秘伝(笑)の博多もつ鍋うどんのレシピを紹介する。大きな秘密は、「久原本家 茅乃舎」の茅乃舎だしと、野菜だしを量に応じて、1対1で使うだけで、簡単に博多もつ鍋のスープが出来る。

サニー秘伝の博多もつ鍋うどん(2人分)のレシピ

☆鍋つゆ
水800cc
茅乃舎だしと野菜だし 2パックずつ
すりごま 大1
みりん 大4
ニンニク(すりおろし) 2片
おろし生姜 適量


☆材料
牛ホルモン400g
キャベツ(一口大) 6〜7枚
ニラ(5cm幅)1束
もやし1袋
ごぼう(ささがき)1/2本
ニンニク(薄切り) 2〜3片
生しょうが 適量
鷹の爪 6本(お好みで)
うどん人数分


☆作り方
1、鍋に鍋つゆの材料をすべていれ火にかける。
2、別の鍋に水を沸かし、沸騰したら牛ホルモンを下茹でして湯切りする。
3、下茹でした牛ホルモンとニンニクのスライスを鍋に入れ少し煮るか、キャベツとニラと一緒にごま油とラー油で炒めて取り出しておく。
4、ホルモンを取り出した鍋に野菜を入れ、柔らかくなったら、ホルモンを戻し最後にニラをいれて蓋をし、再度沸騰したら完成
5、麺はうどんで無くてもちゃんぽんやラーメンでも合う。


これから夏に向けて土砂災害や洪水害など体力を激しく消耗する自然災害対応等が予想され、消防活動が厳しくなってくる。災害現場でも、隊員の誰でもが料理を作ることができれば、長時間、数日間の長期活動での栄養補給も簡単にできる。

消防署で作る食事は、命を守り、人々の安全な生活を守る仕事をしている消防士達の力の源であり、食事を作る時間は消防士達の大切なセラピーにも成っていること。

そのことを多くの人たちに理解していただき、また、消防側からも消防広報として、消防署で食事を作ったり、そのために買い物に行ったりすることの必要性を動画などで具体的に伝えていくべきではないかと思う。

■米国消防隊流食料買い出し事情~買い出しで市民との絆を作る!~
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1962

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
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