ビギナー登山者の行動からリスクマネジメントの教訓を学ぶ(写真:写真AC)

■突然ですが、山登りは禁止です!

木村ハルト(陽翔)は30代前半の独身サラリーマンです。仕事のストレス解消と体力維持のために見よう見まねで始めた山歩きは、今年で2年目。将来的には日本百名山すべてを踏破するのが目標です。

はじめは無我夢中で楽しさと達成感だけを求めて登っていたハルトでしたが、山でいろいろ経験するうちに、我ながら少し慎重になってきたなあと思う今日この頃です。

有名ブランドの山でも安全が保証されているわけではない(写真:写真AC)

最近、こんなことがありました。東北のA山に登りに行ったときのこと。バスを降りて登山口の前に来たら、「当面登山禁止」の真新しい看板があります。その説明書きを読んでみると、どうやら、最近この山で有毒な火山ガスが観測されたので、状況が落ち着くまで登山を禁止するとのこと。せっかく休暇をとってやってきたのにとガックリと肩を落とし、結局山には登らずにふもとの温泉巡りで憂さを晴らすしかありませんでした。

「そもそも…」と、ハルトは露天風呂に肩までつかりながら考えます。A山への登山を勧めてくれたのは、同じく山登りを趣味とする職場の先輩ヒデさんでした。「A山はいいよ。誰もが知っている日本百名山の一つだから安心・安全だ。時間が許せばワシも一緒に行きたいくらいだ」

しかし今回の一件で、たとえ有名ブランドの山といえども、必ずしも登山の安全が保証されているわけではなさそうだと感じたのです。そして、自宅に戻るとさっそく火山について調べてみました。

■あるある、火山のキケンな前歴

ネット検索で得た情報によると、日本には111もの活火山があること自体驚きでしたが、それにもまして結構あちこちの火山に危険な歴史があることをハルトは知ったのです。

たとえば1991年6月には長崎の雲仙普賢岳で大火砕流が発生し、死者行方不明者43人を出しました。また、福島にある安達太良山では、1997年9月、悪天候の中を登山中のパーティのうち4名が立入禁止地域に迷い込んで火山ガスを吸い、亡くなっています。

2014年9月には木曾の御嶽山が噴火し、噴石の直撃を受けるなどして47名もの登山者が亡くなりました。2018年1月には草津白根山が噴火してスキー客や雪上訓練をしていた自衛隊員たちが被害を受けました。このほかにも、多くの火山で何らかの被害や影響が出ていることが見てとれます。

上段左から雲仙岳平成新山、御嶽山。下段左から草津白根山、安達太良山(写真:写真AC)

火山は思ったより危険なんだなあ。登山するのは避けた方がいいかも…。こうつぶやいてはみたものの、日本百名山のうち活火山の数は34座、ざっと3分の1は活火山です。危険だからといってむやみに避けていたら、せっかくの百名山踏破の機会を失ってしまいかねません。

よそを見れば、老いも若きも多くの登山者が、あちこちの火山に屈託なく楽しそうに登っているではありませんか。「あまり考えすぎるのもよくないな」と彼は気を取り直し、もう少し慎重に準備を進めれば、そんなに不安や危険を意識せずに楽しく登れるかもしれない。そう思ったのでした。