5月30日、地域力創発に向けた産学連携研究を開始(写真は関電工のプレスリリースより)

東京大学(生産技術研究所・社会科学研究所)と株式会社関電工、東芝エネルギーシステムズ株式会社、アストモスエネルギー株式会社、株式会社日建設計総合研究所は、「地域力創発デザイン」をテーマに産学連携の共同研究を開始する。地方では、人口減、少子高齢化、財政難などの課題が一層進展しつつも、大規模地震や気候変動に伴う気象災害の激甚・頻発化への備えの拡充が喫緊の課題となっている。さらに地球規模の課題への対応としてカーボンニュートラル社会への転換を急ぐ必要もある。そこで、共同研究では、地域の安全性(レジリエンス)、環境貢献(カーボンニュートラル)、持続性(サステナビリティ)を主軸とした空間・機能・社会システムの再デザインを目的とし、手始めとして、地域に分散型のエネルギー供給網を開発していく。

 プロジェクトのリーダーを務める東京大学生産技術研究所教授の加藤孝明氏は、「物事を変えられない慣性の力により、時代に伴い変わっている課題に対して、社会の仕組みが大きくかけ離れ、そのギャップが大きくなっている。そこを変える必要がある」と、共同研究の狙いを語る。障壁になっているのが財政力や従来型の縦割りの弊害だ。例えば、国民一人あたりのGDPはここ数年低迷しているのに対して、大規模災害などを防ぐためには防災面の一層の整備が求められている。このギャップを埋めるには、財源を確保するとともに、1つの防災対策を、より効率的・多面的に効果をもたらす連携が必要になる。

 一方、2022年度は、「配電事業制度」が始まる。日本の電力システムは、電力をつくる「発電」、それを消費者へと送る「送配電」、消費者へ販売する「小売」という部門から構成され、以前は、3つの部門すべてを電力会社が運用していた。しかし、発電部門は自由参入が可能となり、小売部門も2016年以降、全面自由化が実現した。今年度からの配電事業制度は、電力会社が運用する「配電網」の運用ライセンスを新規参入事業者に与える。ここで生み出された利益を地域貢献に生かすことができれば、地域の力は格段に強化され、地域社会の問題の解決に結びつく1つのモデルになり得る。

共同研究ではこうした社会経済の変化をチャンスととらえ、直面する社会課題に対して地域を対象として総合的なソリューションを探求する。地域社会のそれまでの文脈、地域資源を最大限、活かしつつ、新たな地域資源や担い手を創出し、空間・機能・社会システムを地域の実情に即して再デザインを行い、地域の持続性を高められる地域の未来像を描いていきたい、とする。

 その際、「最も重要になるのがエネルギー」と加藤氏は強調する。特に大規模災害時でも地域で自立的な生活を成り立たせる上ではエネルギーは不可欠。環境問題でも最も大きな課題になっている。「エネルギー企業の地域参画が地域イノベーションを生み出し、地域の明るい未来を創造する」(加藤氏)

 今後は研究対象となる自治体などを選定し、東大が有する知見と技術、4社が有する経験、ノウハウ、技術を融合し、研究を展開していく予定だ。具体的には、関電工の地域マイクログリッド技術、再生可能エネルギー技術、東芝エネルギーシステムズのエネルギーマネジメント技術とデジタル技術、アストモスエネルギーの分散型エネルギー源としてのカーボンニュートラルLPガスと地域密着型の供給網、そして日建設計総合研究所の地域づくりの幅広い経験に期待する。