幕末・維新の偉才・勝海舟を点描する
海軍力の重要性に目覚めた改革派の幕臣

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2018/07/09
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
明治維新から150年である。幕末・維新の激動に思いをはせる時、幕府側の最重要人物の一人として幕臣・勝海舟(1823~1899)の存在を無視することはとうていできない。あるいは最後の将軍・徳川慶喜よりも重要である、といえる。
海舟の人物像、中でも私を強くひきつける生きざまの断面を点描してみよう。海舟の生前から、<海舟好き>と<海舟嫌い>の両派がいることはよく知られたことだ。「勝海舟」(勝部真長)を参考にして<海舟好き>派と<海舟嫌い>派を見てみよう。
海舟は自伝「氷川清話」のなかで、「大人物というのはそんなに早く世に現れるものではない。通例は百年後だ」と語っている。彼自身は、100年に1人現れる大人物のつもりであっただろうか。幕末、海舟の氷解塾の塾長として海舟の長崎出張中に留守を預かっていた杉亨二(すぎこうじ)は、後に我国統計学の草分けとなり、学士院会員・法博として90歳の長寿を全うし、海舟の生涯をよく観察していた人である。彼は「海舟は日本開闢以来の人豪なり、英傑なり」と絶賛している。(「自叙伝」私家版)。
足尾鉱毒事件の自由民権家田中正造も「安房(あわ、海舟)の知、安房の徳は、天賦にして、普通凡て、普通凡庸の遠く及ばざるのみか、企て及ばざる所なり。・・・一世を以って品評すべからず、100年の後に定まる」と断じている。同じように絶賛である。
さらには、海舟と同時代の人物では、坂本龍馬と西郷隆盛が海舟を認めている。坂本龍馬は文久3年(1863)3月20日付の姉・乙女宛ての手紙に、「今にては日本第一の人物勝麟太郎(海舟)という人の弟子になり・・・」と書いている。西郷隆盛は元治元年(1864)9月、大坂の宿で勝安房守(海舟)と初対面の直後、国許の大久保一蔵(利通)宛ての手紙に、「勝氏へ初めて面会仕り候ところ、実に驚き入り候ふ人物にて・・・トンと頭を下げ申し候。それだけ知略これあるやら知れぬ塩梅に見受け申し候。まず英雄肌合いの人にて、佐久間(象山)より事の出来候ふ儀は、一層も越え候はん・・・、この勝先生と、ひどく惚れ申し候。」とある。西郷は一目惚れしてしまったのである。
特に西郷は勝を単なる弁論知恵の人としてではなく、「事のできる」実際家、政治的実務家として見抜いている。坂本、西郷ほどの人物の証言に勝る有力な人物評価はあるまい。
「東洋のルソー」といわれた、明治民権運動の指導者・中江兆民もまた海舟ファンであった。兆民の弟子・幸徳秋水が書いている。「先生、壮時より海舟翁の知を得て、深く人物に推服せり。常に予に語って曰く、勝先生は当代の英雄なりと」(「兆民先生、兆民先生行状記」幸徳秋水)。
ところがその反面、海舟嫌いの流れは根強いものがあって、それが幕臣・旗本(小栗上野介忠順、栗本鋤雲、大鳥圭介ら)あるいは会津藩等の方面に多いのである。敵対した薩長藩閥を核とする明治政府に参加して、伯爵にまで上り詰めた下級旗本出身の勝海舟を「節を屈した」として認めたがらない。この一派の代表格が文明論者福沢諭吉である。彼の「痩我慢(やせがまん)の説」という勝批判は、海舟嫌いの決定版となったといっていい。このように、勝海舟という人物は不世出の人物で魅力的といえる一方で、とらえにくい人間だともいえるのである。
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方