2023/01/19
事例から学ぶ

精密板金加工のカイシン工業(長野県長野市、堀豊会長)は2019年、台風19号でグループ会社を含む3つの工場が壊滅的被害を受けた。が、経営トップが即座に「全力復旧」の方針を発表すると、自立運営体制を取っていた各工場は翌日から活動を開始。取引先や協力会社からの支援を受けて浸水した設備の入れ替えを迷いなく進めるとともに、就業時間外の他社工場を借りて一部の生産活動を早期に再開した。約4カ月の復旧活動から、同社のBCPと助け合える関係づくりを紹介する。
カイシン工業
長野県
※本記事は月刊BCPリーダーズvol.34(2023年1月号)に掲載したものです。
❶トップの早い方針発表と各工場の自立的行動
・被災当日、経営トップが即座に「全力復旧」の方針を発表。工場が自立して動く「事業部制」をとっていたこともあり、翌日から迷いなく行動を開始。
❷協力会社や取引先から次々と協力の申し出
・現地復旧では、取引先の協力で電気関係設備の交換を迅速に実施。代替生産においては、協力会社の工場や設備を借りて一部の加工と出荷を早期に再開。
❸BCPの改善と助け合える関係づくり
・BCPに水害想定を追加し、避難基準を設定したほかデータバックアップ体制を強化。取引先や協力会社、社員との信頼、助け合える関係づくりの重要性も再認識。
被害当日にトップが「全力復旧」を指示
一級河川の千曲川が長野市穂保地籍で決壊したのは2019年10月。のちに「令和元年東日本台風」と名付けられた台風19号による大雨は流域全体を激しく毀損、特に堤防決壊による濁流は周辺1000ヘクタールを襲い、宅地から農地、工業団地、商業店舗、公共施設などすべてをのみ込んだ。北陸新幹線の車両が並んで水没している映像は記憶に新しい。
長野市北部に工場を集積するカイシン工業はこの洪水により、グループ会社を含め3つの工場が壊滅的被害を受けた。浸水深は穂保工場が2メートル、豊野工場およびカイシンエレクトロニクス豊野工場が3.5メートル。10月13日未明に決壊が報じられると、その2時間後には、総務部門が置かれる穂保工場近くの高台に経営陣と幹部社員の姿があった。
「会長と私が水に浸かった穂保工場を眺めたのが早朝6時。このとき、会長はすでに『復旧する』という方針を決めていた」と、同社経営企画室の小寺茂範室長はいう。

即座に安否確認を開始し、同日午後3時には出社可能な全幹部社員と現場リーダーを穂保工場から数百メートルの距離にある駒沢工場に参集。その場で堀豊会長が事業継続方針として「全力復旧」を明言し、被災した各工場に具体的な復旧スケジュールの構築を指示した。
これを受けて各工場は翌日から、総務部門と連携しながら自発的な行動を開始。結果、全工場が、機械設備を喪失した状態から約4カ月で稼働レベルを元に戻している。「振り返ると、トップの早い決断がすべて。これにより社員が迷うことなく、はっきりした目標に向かって強い気持ちで動き出せた」
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