山もあれば谷もある人生(写真:写真AC)

■失敗続きのハルトだった…

「ツイてない…」。このところハルトは元気がありません。それもそのはず、仕事の失敗が度重なったからです。

大切な調査報告を添付したメールを間違った宛先に送信してしまったのが始まり。次は、仕事のステップアップを図ろうと密かに勉強してきた資格試験の結果が見事に惨敗。さらに追い打ちをかけたのが、企画会議でのプレゼンテーション。必死に熱弁をふるったつもりが、社長の「その提案、来期以降でいいんじゃない?」のひと言で事実上の却下。

人間には好調と不調のサイクルがあるというが(写真:写真AC)

かつてバイオリズムという言葉が流行ったことがあります。人間には好調と不調のサイクルがあって、その山と谷を意識すれば失敗を回避し、仕事の能率を高められるなどと、いろいろなメリットがビジネス書に書いてありました。ハルトもこのバイオリズムにあやかって、ちょっと日帰り登山でもしてリフレッシュすれば、失敗の連鎖を断ち切れるかもしれない、そう考えて丹沢に行くことにしたのです。

土曜日の朝、登山靴の紐をキュッとしばり、リュックを背負って颯爽と玄関を出る。ところが電車に乗っていても山道に入っても、一連の失敗のことが容赦なく思い浮かんできます。しかも何度も何度もしつこいくらいに。

ハアハアと吐く息に、心なしか不健康なため息も混じっているような気分。リュックの重みで自分の体がひと回り小さくなったようにさえ感じる…。結局、登山の疲労を上乗せしただけの最悪の週末で終わってしまいました。

■"レジリエンス"は救世主になり得るか?

月曜日の昼すぎ、会社の山の先輩ヒデさんは憔悴した顔のハルトを見て心配し、こんなふうに声をかけてきました。「ハルト君、レジリエンスって聞いたことあるかい?」。ハルトが首を横にふる間もなく、レジリエンスとはね…と、ヒデさんは説明を始めました。

レジリエンスは「回復する力」のことです。山や海で遭難し生還したサバイバル体験者、スランプから脱して見事に復活を果たしたアスリート、戦争や災害のトラウマ、大病を乗り越えた人。こうした人々に見られるのが例えば次のような特徴です。

困難や逆境のなかでも立ち止まらず常に前を向いて一歩ずつ(写真:写真AC)

どんな絶望的な状況にあってもそれをジョークで蹴散らす。やってもムダだろうと思えるようなちっぽけなことでも淡々と行動に移す。自分を見失わないように、立ち止まらずに一歩でも前に出るというポジティブな姿勢。また、自分の運命は自分で選択するものだ、あるいは現状や未来を自分の意志と行動力で変えられると考える。たとえ途中でつまずいても、自分を貶めたり人のせいにしたりはしない。気持ちを切り替え、現実を見据えて目標に向かって着々と歩む。

「ムリムリ。僕のような凡人にはできそうにありません」と弱々しい声で答えるハルト。しかしヒデさんは「まあ聞いてくれ。次の3つのことを意識するだけでいいんだ」と強気です。