「学び直し」をいうなら基礎教育の改革から
第34回:多様性に対する寛容度と鈍感度(6)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2023/02/28
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
ジュニア世代の教育・訓練に問題があり、その影響かどうかは別にしても、日本人の長文読解力が低下している現実を語ってきた。しかし、憂いてばかりはいられない。現実がその状況なら、それに即した社会人教育、いや生涯教育の環境を社会や企業がつくり上げなければならないだろう。
それは一部の政治家がいうような「学び直し」という類ではなく、個々人の人間としての能力を高め、社会活動における実践に役立てるものである。この教育・訓練は、企業の事業活動にもプラスに働き、ひいては国家としての国力向上にもつながる。従って、個人、企業、国家と、どの視点からでも始められることであり、始めるべきことだろう。
では、社会人になってからの教育・訓練として何をなすべきか。もちろん、専門性の高い職種に就いた場合は、専門知識や技能の教育・訓練は欠かせないだろう。一般企業であろうとも、それぞれの組織・部門における専門性を高めることは必要不可欠だ。
専門性教育とは別によく行われるのが、社会人のステージごとの基礎教育の類だろう。座学を中心に、各ステージの役割を提示し、その意識醸成、モチベーションを高めるとともに、縦横の組織の人脈形成、コミュニケーション力形成にも役立つものだ。
しかし、この範疇で決定的に欠落しているのが、日本語読解力を備えてきていないことを前提とした教育・訓練だ。当然だろう。それは学校教育で身につけてきているはずだと考えられているからだ。そのため、実態は異なるという問題意識をまずは持つ必要がある。
だからといって、いまさら社会人に国語教育をする必要はない。私は、実践にも即役立つケーススタディが有効だと考える。
ただし、わざわざケースを創作する必要もない。身近に起きた事件、自身たちの営む事業に関係するニュース、自社の過去のクレームでもよい。あるいは何らかの関連する書籍でもよい。それらの題材を読み込んだうえでさらに行間の考察を深めるために、周辺情報や同様事象に対処した事実、その事象が社会的にどう判断されるか等の情報を調査・分析・考察して複数名で議論を戦わせる。
この場合、正解のない議論に対して、トレーナーは答えを誘導するのではなく、コーチングに徹するべきである。情報に過不足はないか、考察に論理破綻はないか、誤謬性のチェックと指摘をしつつ、一部議論に加わることで、健全で建設的な議論に誘導する。
往々にしてあるパターンは、ケース自体の読み込み不足、情報不足による誤解なのだが、それこそ日本語読解力不足現象が顕在化しているのであり、単なるケースで読み取れなければ、実際に起きるさまざまな事象を正確に把握し、適切に対処することなどできるはずがないのだ。
指摘されることによって、気付きが生まれさえすれば、元々識字能力は備わっているのであり、読み込む必要性を感じ、意識することで読解力は高まると同時に、行間を読み込む、周辺情報を探るモチベーションにもつながるだろう。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
「自分の安全は自分で」企業に寄り添いサポート
海外赴任者・出張者のインシデントに一企業が単独で対応するのは簡単ではありません。昨今、世界中のネットワークを使って一連の対応を援助するアシスタンスサービスのニーズが急上昇しています。ヨーロッパ・アシスタンス・ジャパンの森紀俊社長に、最近のニーズ変化と今後の展開を聞きました。
2025/08/16
白山のBCPが企業成長を導く
2024年1月1日に発生した能登半島地震で震度7を観測した石川県志賀町にある株式会社白山の石川工場は、深刻な被害を受けながらも、3カ月で完全復旧を実現した。迅速な対応を支えたのは、人を中心に据える「ヒト・セントリック経営」と、現場に委ねられた判断力、そして、地元建設会社との信頼関係の積み重ねだった。同社は現在、埼玉に新たな工場を建設するなどBCPと経営効率化のさらなる一体化に取り組みはじめている。
2025/08/11
三協立山が挑む 競争力を固守するためのBCP
2024年元日に発生した能登半島地震で被災した三協立山株式会社。同社は富山県内に多数の生産拠点を集中させる一方、販売網は全国に広がっており、製品の供給遅れは取引先との信頼関係に影響しかねない構造にあった。震災の経験を通じて、同社では、復旧のスピードと、技術者の必要性を認識。現在、被災時の目標復旧時間の目安を1カ月と設定するとともに、取引先が被災しても、即座に必要な技術者を派遣できる体制づくりを進めている。
2025/08/11
アイシン軽金属が能登半島地震で得た教訓と、グループ全体への実装プロセス
2024年1月1日に発生した能登半島地震で、震度5強の揺れに見舞われた自動車用アルミ部品メーカー・アイシン軽金属(富山県射水市)。同社は、大手自動車部品メーカーである「アイシングループ」の一員として、これまでグループ全体で培ってきた震災経験と教訓を災害対策に生かし、防災・事業継続の両面で体制強化を進めてきた。能登半島地震の被災を経て、現在、同社はどのような新たな取り組みを展開しているのか――。
2025/08/11
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/05
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/08/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方