国が後ろ盾になっているような大企業には、大規模災害時、協力業者が本当に駆けつけてくるのか(イメージ:写真AC)

本連載は、BCPで規定した計画と現実との間に生じるギャップを抽出。多くの企業に共通の「あるある」として紹介し、そうしたギャップが生じる原因と、そこへの対処を考えています。第1章として「リソース制約と事業継続戦略の検討・見直し」のなかに潜む「あるある」を論じていますが、今回は「外部リソースの制約」を取り上げます。

第1章 リソース制約と事業継続戦略の検討・見直しの「あるある」

(4)外部リソースの制約

・ウチは「親方〇〇」だから(関西大手・業種非公開・情報部門)

関西のある大手企業の事例です。とても公共性の高い企業と申し上げるにとどめ、業種の公開は控えさせていただきます。

大規模災害でサーバールームが損傷したら(イメージ:写真AC)

その企業はかなり古い自社社屋の一角をサーバールームとして、たくさんのサーバーで大規模な情報システムを運用していました。各地の拠点のサーバーはデスクの下などに置かれていました。また、本社と拠点のほとんどのサーバーは旧世代のオペレーティングシステムがそのまま使用されていました。

サーバーの設置場所や管理は適切ではない状態であり、セキュリティーの面でも不安の多い状態でした。大規模な災害にしろ、セキュリティーインシデントにしろ、何かあったら復旧にはかなりの時間を要することが容易に想像できました。

正直なところ、どこから何の話をしたものか迷ってしまいました。以下、情報部門の部門長の方との会話です。

「大規模な災害などでサーバールームが大きなダメージを負ってシステムが停止するような場合であっても、御社のさまざまなサービスの中でどの部分を優先的に継続していくか、どのような手段でそれを行っていくかがBCPですが、会社のBCPやその方針は聞いていますか?」

部門長「特に聞いていない」

「社会性の高い業務のシステムを運用するサーバールームとしては、建物の耐震基準の面、空調などの設備の面でも不十分ではないでしょうか。拠点のサーバー群はさらに危険な状態です」

部門長「あなたが心配することではない」

私のような外部のコンサルタントに、最初にキツイいい方で何かひとこと先制パンチを見舞っておきたい気持ちもわからないわけではありません。

サーバールームの耐震補強や設備の冗長化、免振装置の導入、また外部への移転を行うためには、止められないシステムをどう切り替えるのかを計画することが重要となりますし、情報システム部門だけで決定できることではありませんから、事業部門との細かい調整も必要となります。

それには大きなコストがかかることは確かで、予算の確保も大きな課題。いま会ったばかりの外部の人間にいわれたくない気持ちもよくわかります(ちなみにこの部門長の方とは、その後きちんと前向きなお話ができるようになりました)。

「もしサーバールームやサーバーが大きなダメージを負ってしまった場合、復旧にはかなり時間がかかると思います」

部門長「ウチは『親方日の丸』だから、電話一本で業者がわーっと駆けつけてくるから気にしなくていい」

「えっ?(心の声:それがダメなときのBCPなのでは?)」

自社の経営体質を自嘲的に表現したうえで、再び『あなたが気にすることではない』とおっしゃっているのですが、「日の丸」の力を過信しすぎです。図に注目してください。

●南海トラフ巨大地震の全壊・消失地域

画像を拡大  出典:南海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告)(平成24年8月29日発表)から引用・編集

この事例の舞台となった場所に★をつけてあります。★印の南側を中心に、赤色(1キロ四方で500棟以上が全壊・焼失)や紫色(同200棟~500棟が全壊・焼失)の全壊・焼失地域が大きく広がっていることがわかります。また、全壊・焼失が多い地域が人口密度の高い地域と重なっていることもわかります。

●大阪府地域メッシュ統計からみた人口・世帯数

画像を拡大  出典:令和2年国勢調査に関する大阪府地域メッシュ統計報告書-平成27年から令和2年までの変化-」(令和5年3月23日)

このような地域から★にあるサーバールームに向かってわーっと駆けつけることが本当に可能でしょうか。