第3回 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言の内容と課題
信頼性・透明性を高める情報開示が求められる

島崎規子
大学関係の主たる内容は、駒澤大学経済学部、城西大学短期大学部、城西国際大学経営情報学部大学院教授などを歴任し、同大学定年退職。城西国際大学では経営情報学部経営情報学科長、留学生別科長などを務めた。大学以外の主たる内容は、埼玉県都市開発計画地方審議会委員、財務省独立行政法人評価委員会委員、重松製作所監査役などを務めた。
2024/02/10
環境リスクマネジメントに求められる知識
島崎規子
大学関係の主たる内容は、駒澤大学経済学部、城西大学短期大学部、城西国際大学経営情報学部大学院教授などを歴任し、同大学定年退職。城西国際大学では経営情報学部経営情報学科長、留学生別科長などを務めた。大学以外の主たる内容は、埼玉県都市開発計画地方審議会委員、財務省独立行政法人評価委員会委員、重松製作所監査役などを務めた。
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の主たる目的は、企業が気候変動に伴うリスクと機会を適切に開示することで、投資家や金融機関が、効果的な投資判断を行えるようにすることです。したがって、気候変動関連リスクと機会を財務情報として開示するので、多くのステークホルダーの適切な意思決定に役立つことになります。TCFDは、2017年6月に最終報告書を公表しました。このTCFD提言に基づいて、TCFD提言ガイドラインが作成されました。日本では、経済産業省が2018年に初版を公表し、その後、民間主導の「TCFDコンソーシアム」が改定作業を引き継ぎ、2022年に「TCFDガイダンス3.0」を公表しました。TCFD提言の内容と課題を中心に解説いたします。
TCFDとは、20カ国・地域からなる国際会議(G20:Group of Twenty)の要請を受け、金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)により、気候関連の情報開示および金融機関の対応をどのようにするかを検討するために設立された気候関連財務情報開示タスクフォースを意味します。
日本では、TCFD提言に基づくガイドラインを公表し、企業などに対し「気候変動関連リスクおよび機会」に関する次の4項目について、開示を推奨しています。
① ガバナンス―どのような体制で検討し、それを企業経営に反映しているか。
② 戦略―短期・中期・長期にわたり、企業経営にどのように影響を与えるか。またそれについてどう考えたか。
③ リスクマネジメント― 気候変動のリスクについて、どのように特定、評価し、またそれを低減しようとしているか。
④ 指標と目標―リスクと機会の評価について、どのような指標を用いて判断し、目標への進捗度を評価しているか。
「気候変動関連リスクおよび機会」とは、気候変動が、企業の事業や財務に与える可能性のある不利な影響(リスク)および有利な影響(機会)を指しています。
気候変動関連リスクには、次の2種類があります。
(ア) 移行リスク― 低炭素社会への移行に伴う政策や技術、市場、評判などの変化によるリスク。
(イ) 物理的リスク―気候変動による自然災害や気象パターンの変化による物理的な被害 によるリスク。
気候変動関連機会には、5つの面があります。すなわち、(a)気候変動の緩和や適応によって生じる資源効率性の向上、(b)エネルギー源の変更、(c)製品やサービスの開発や拡大、(d)新たな市場の創出、(e)事業の強靱性の向上、などです。
このように「気候変動関連リスクおよび機会」は、企業の経営戦略や財務計画に大きな影響を与える可能性があります。そのためTCFD提言は、企業に対して、これらを適切に評価して開示することを求めています。企業は、TCFD提言に賛同することで、気候変動対策の経営戦略に取り組み、投資家やステークホルダーとの対話を促進することができます。
TCFD提言には、世界中の多くの企業や金融機関が賛同しており、日本では、2023年11月時点では、1,488社の企業や機関が賛同していると発表されています。
環境リスクマネジメントに求められる知識の他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方