第18回 政府と民間の排出権取引の動向
排出権取引のしくみと事例を紹介

島崎規子
大学関係の主たる内容は、駒澤大学経済学部、城西大学短期大学部、城西国際大学経営情報学部大学院教授などを歴任し、同大学定年退職。城西国際大学では経営情報学部経営情報学科長、留学生別科長などを務めた。大学以外の主たる内容は、埼玉県都市開発計画地方審議会委員、財務省独立行政法人評価委員会委員、重松製作所監査役などを務めた。
2025/05/05
環境リスクマネジメントに求められる知識
島崎規子
大学関係の主たる内容は、駒澤大学経済学部、城西大学短期大学部、城西国際大学経営情報学部大学院教授などを歴任し、同大学定年退職。城西国際大学では経営情報学部経営情報学科長、留学生別科長などを務めた。大学以外の主たる内容は、埼玉県都市開発計画地方審議会委員、財務省独立行政法人評価委員会委員、重松製作所監査役などを務めた。
国内初の排出権取引所は、京都議定書に基づいて、温暖化ガスの排出削減目標の達成に向け、2007年度より開始しています。商社や電力会社などの一部大手企業は、早くからクリーン開発メカニズム(CDM :Clean Development Mechanism)事業を活用して、海外から独自に排出権を購入しています。環境省による温暖化ガス排出権の電子取引は、2007年6月に開始しています。環境省は、カーボン・オフセットの取り組みを促進するため、2008年11月にオフセット・クレジット(J-VER: Japan-Verified emission reduction)制度を創設して、脱炭素社会の形成を促す原動力としています。第15回、第16回、第17回に引き続き、政府と民間の排出権取引のしくみと事例を紹介いたします。
国内で初めての排出権取引所は、国際協力銀行、中央三井信託銀行などが運営し、買手は、国内の電力会社、鉄鋼メーカー、セメントメーカー、投資銀行などであり、売手は、中国の電力会社、インドの製鉄所、日本の商社などです。国内初の排出権取引所のしくみは、図表1のとおりです。
図表1の排出権取引所では、排出権を売りたい企業が、国連に登録した排出権を信託財産として信託銀行に預託して、その受益権を売買します。また、購入したい企業も、信託銀行に口座を開き、口座間で受益権を売買します。売買価格情報は外部に公表し、排出権の移転に伴う名義管理は、信託銀行が受持つ仕組みとなっています。
信託銀行の口座開設は、外国企業も可能で、京都議定書に加わっていない中国、インド、アメリカの企業も取引に参加できます。また、金融機関や商社が、口座を開いて投資目的で排出権を売買する道も開けていて、排出権を小口にわけて売却する選択もあり、活用範囲は広まっています。
2004年12月に創設された日本温暖化ガス削減基金(JGRF :Japan GHG Reduction Fund)が、海外から排出権を取得するスタート時の排出権取引のしくみは、図表2のとおりです。
図表2においては、出資企業が共同で排出権を取得でき、企業が個別にCDM事業を手掛けずに、国内の増産に対応したCO2削減が進められるメリットがあります。排出権を取得するのは、トヨタ自動車、ソニー、東京電力、新日本石油、三菱商事、三井物産、国際協力銀行、日本政策投資銀行など国内有力企業と金融機関の国内33社が出資した基金です。
この基金運用は、日本カーボンファイナンス(JCF: Japan Carbon Finance)に任せられ、初取引は、南アフリカの廃棄物処理場で発生する温暖化ガスを減らす見返りに、CO2換算で6年間に計約100万トンの排出権を取得しています。JCFが購入した排出権は、JGRFに転売され、出資企業には、出資比率に応じて、毎年排出権を定期的に配当として還元する仕組みとなっています。
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