フジテレビの10時間以上に及ぶ異例の記者会見はどのような教訓を残したのか(イメージ:写真AC)

リスクコミュニケーションの実相

危機管理担当者も目をそらせない事案だった(イメージ:写真AC)

さて、先日のフジテレビによる10時間24分という長時間の会見をご覧になられた方はどうお感じだろうか。特に企業のコンプライアンス・危機管理・リスクマネジメントに携わる方々にとっては目を背けることができない事案であり、憤りすら感じる方も少なくないだろう。

今回は、予定を変更して、この話題に関して法令遵守の範囲に縛られず、企業風土改善による再発防止という観点で語らせていただく。それゆえ、事案の真相や是非はいったん横において語ることをお許しいただきたい。

語らせていただく視点として、次の3点をあげたい。

➊会見自体のあるべき姿、リスクコミュニケーションの実相
➋危機管理プロセスとしてのあるべき姿
➌再発防止の観点では何を論議すべきか

まず➊に関してだが、同社がポリシーとして「被害女性のプライバシーを守る」を貫き「できる限り少人数で進めたい」という意思から、最初の会見はカメラを入れず非公開で行った。批判が集中すると、2回目は質問が尽きるまで終わらない姿勢になった。それでも、相変わらずポリシーを守っての応答回避が目立っていた。

メディアによる責任追及の構造がコミュニケーションを困難化させる(イメージ:写真AC)

確かに会見での質問は、ゴシップ記事的追及で、記者自身の主義主張を押し付けて同意しない限り許さないと感じるものが多かった。これでは、質問に真摯に向き合ってコミュニケーションを図ることが困難である。しかし、実はこの追及の構造は、これまでマスメディアが取材と称してつくり上げ、政府批判や不祥事を起こした企業に向けてきた「報道」と称する活動の行きつく先だ。

そしてこの構造はネットの情報空間にも波及し、自己の主義主張を押し付け、客観的事実や論理性を無視した誹謗中傷がまん延している。ただ、ネット空間ではまだ論理的な主張や情報発信も少なからずあり、せめぎ合っている状態だが、リアル空間ではこの追及の主役がマスメディア以外になく、より過激になっているというのが筆者の感想である。

今回の会見のような活動が繰り返されれば、リスクコミュニケーションは単に留飲を下げるだけの糾弾会になる(イメージ:写真AC)

本来であれば、質問側もコンプライアンスや危機管理、あるいは品質保証の専門家の意見を取り入れて、事態の解明や要因分析、対処策と再発防止などの本質的な問題を質すべきである。その結果、わかっていることとわかっていないこと、何が悪くどう考えているかとその問題点、再発防止に至るプロセスにおける現在地点を明確にする必要がある。これには前記の専門知識とオープン・クローズクエッションのテクニックが必須だが、正直、その種の訓練は行われていないと想像する。

そのノウハウが取材記者になく、先日の会見のような活動が繰り返されるなら、吊るし上げて溜飲を下げるだけの魔女裁判にほかならなくなる。企業はこの構造をふまえたリスクコミュニケーションのあり方を真剣に考える必要があるだろう。

一つの案は、記者会見以前に、各専門家の意見を取り入れた再発防止策の発信を能動的に行うことである。それもスピード重視で。先手必勝の時間勝負になるが、その時間はあったはずだ。