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トランプ政権が推進した関税政策、通称「トランプ関税」は、米国経済と国際貿易に大きな波紋を広げた。この政策は、対象となる品目や国によって異なる性格を持ち、大きく「特定品目関税」と「特定国関税」に分けられる。特定品目関税は、国内産業の保護や貿易収支の改善を目指す経済合理性を強く反映する。一方、特定国関税は、地政学的対抗や国内政治への訴求を優先し、政治性が際立つ。ただし、両者は完全に分離するものではなく、動機が重複する場合もある。本稿では、これら二つの関税の特徴と影響を分析し、その背景を明らかにする。

特定品目関税:経済的計算に基づく保護主義

特定品目関税は、鉄鋼、アルミニウム、太陽光パネルなど特定の製品群に課される関税である。この関税は、米国の製造業を安価な輸入品から守り、国内の雇用や生産を維持・拡大することを主眼とする。例えば、鉄鋼やアルミニウムへの関税は、海外からの大量輸入によって圧迫されていた米国の鉄鋼産業を立て直す狙いがあった。実際に、関税導入後、国内の鉄鋼生産は回復傾向を示し、関連産業の雇用も増える兆しが見られた。このように、特定品目関税は、産業競争力の強化を直接的な目標とし、経済的効果を重視する。

また、特定品目関税は、貿易赤字の是正に寄与する。米国は長年、製造業製品の輸入超過に悩まされており、特に中国や欧州からの輸入が問題視されてきた。トランプ政権は、関税を通じて輸入品の価格を上げ、国内生産を促すことで、貿易収支の均衡を図った。鉄鋼やアルミニウムの輸入が抑えられた事例は、この政策が一定の成果を上げたことを示している。さらに、太陽光パネルへの関税は、中国製品の市場支配を弱め、米国や他の地域での生産を後押しした。こうした動きは、グローバルなサプライチェーンの再編を促し、長期的な産業の自立を志向する。

ただし、特定品目関税にも課題はある。輸入品の価格上昇は、国内の製造業や消費者にコストを転嫁し、物価や生産コストの上昇を招く。経済合理性を追求する一方で、こうした副作用を軽視することはできない。それでも、国内産業の保護と経済的利益を優先する姿勢は、特定品目関税の核心にある。