編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年7月25日号(Vol.44)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月20日)

「2009年はクラウド元年」と言われたように、クラウドコンピューティングは、日本では2009年頃から少しずつ広がりをみせ、近時ではクラウドコンピューティング事業者が、法人向け・個人向けに様々なクラウドサービスを提供しています。

総務省が行っている平成24年度通信利用動向調査によれば、国内においてクラウドサービスを利用していると回答した企業の割合は28.2%、資本金50億円以上の企業では52.8%となっています。 

そこで、本稿では、クラウドコンピューティングやクラウドサービスの具体的内容、クラウドサービスの導入に伴って生じうる労務問題について説明します。

1 クラウドコンピューティングとクラウドサービス 

「クラウドコンピューティング」という用語には決まった定義がなく、概ね共通している要素をまとめると、「従前手元のコンピュータの中にあったハードウエアの機能やソフトウエア・データをインターネット上のサーバ群に移行させ、それらを必要に応じて必要な分だけを利用するというコンピュータの利用形態」であると言えます。 

そして、クラウドコンピューティング事業者から提供されるサービスが「クラウドサービス」と呼ばれるもので、共有化されたコンピュータリソースについて、利用者の要求に応じて、インターネットなどのネットワークを通じて提供されます。なお、「クラウド」という言葉は、システム構築図を作成する際に、インターネットなどのネットワークを雲の図柄で表現することからきています。 

クラウドサービスとクライアントであるパソコンとの間の通信は、通常のWebサーバとWebブラウザ間で使用されている仕組みの上で行われます。従前、企業の業務システムへアクセスするためには、特別なソフトウェアの利用が必要でしたが、クラウドサービスではほとんどの場合、Webを閲覧するためのWebブラウザさえあれば、クラウドサービス上の企業の業務システムを利用することができます。このようにインターネットへの接続環境とWebブラウザ機能さえあれば、パソコン以外にもスマートフォンやタブレット端末などのデバイスを使って、どこからでも簡単にアクセスして利用できることがクラウドサービスの優れた点です。 

そして、前述の総務省の調査によると、クラウドサービスを導入している企業の導入理由として、このような「どこでもサービスを利用できるから」という理由のほかに「資産、保守体制を社内に持つ必要がないから」「初期導入コストが安価だったから」「既存システムよりもコストが安いから」などが挙げられています。 

ただ、クラウドサービスの導入は、企業に様々なメリットをもたらす一方で、情報漏えいなど、セキュリティ面で不安があることも否定できません。