編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年5月25日号(Vol.49)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月26日)

株式会社ノルメカエイシアは、災害時の野外病院システムなど災害医療に必要な機材をシステムと共に専門に取り扱う企業。創業者である代表取締役社長の千田良氏(71)が同社を創立したきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災だったという。

千田氏は「当時勤めていた会社の大阪営業所が被災し、従業員には家族が亡くなった方もいた。同じ年の3月にとある展示会で災害医療のコンセプトを持つノルメカ社(本社:ノルウェー)と出会い、災害医療を日本に広げようと決意した」と当時を振り返る。

ノルメカとは、ノルウェーとメディカルの造語。初代国連事務総長がノルウェー人だったこともあり、同国は小国ながら国際貢献に熱心な国として知られる。オスロ空港には災害用野外病院システムが4セット常備され、災害があればいつでも他国に派遣できるようになっているという。ノルメカエイシアは、日本を中心にアジアで展開する、日本で唯一の災害総合医療商社だ。

東日本大震災では大槌町に仮設県立大槌病院を提供
東日本大震災では津波による被害で町民の1割以上が死者・行方不明者となった岩手県の大槌町。県立大槌病院も3階建ての2階までの部分が水没した。震災翌月の4月下旬から公民館で診療を再開したが、設備も整わず十分な医療活動ができなかった。一方で、米国の製薬会社から医療施設提供とサポートの話があり、千田社長が窓口となり同社の扱うフラットパックコンテナを活用した仮設診療所を設置した。6月には設置が完了し、その後は運営サポートなどもボランティアで行った。この仮設診療所は現在でも活躍している。

千田氏は「よく誤解されるが、私たちは災害が起きてしまったら商売はできない。それは火事の起きているところに消火器を売りに行っているようなもの。私たちの仕事は火事に備えて対策を整えることだ」と話す。

千田氏によると、日本人の危機管理意識はいまだに江戸時代の士農工商と変わりがないという。「当時は武士階級がほかの階級を支配する代わりに安全も守っていた。今の日本人もいつも誰かが守ってくれると考えている人が多いのでは」と話す。例えばアジアのある国でSARSについて講演した時に、参加者から「結局、いつ国外へ退避すればいいのか」という質問が出た。

「自分や家族の命を守る大事な情報を、なぜ人任せにするのか。逃げろと言われて逃げるのでは遅い。自分の身は自分で守らなければいけない」(千田氏)。

厳しい言葉だが、長年医療業界に身を置いた千田氏ならではの痛切な思いでもある。1995年の地下鉄サリン事件では、聖路加国際病院で被害者の治療に当たった医療スタッフが60人以上もサリンの被害に遭った。本来であれば防護服を着用しなければいけない場面で、後にビデオで見直すと、手袋もマスクもせずに治療に当たったスタッフも見られたという。自分を守れない人は、ほかの人を守ることはできない。病院もまず医療スタッフを守らなければ、患者を助けることはできない。

「『病気が人体を解剖し、災害は社会を解剖する』と言われる。災害は「いつ」「どこで」「どのような」「どのくらいの規模で」発生するかを予知することはできないが、これからも必ず発生する。その場合に備えて、最悪の災害を想定し、起きた後の人命救助を最優先にした計画・訓練・準備(コンセキエンス・マネジメント)をし、被害を最小限にすることが私達の責務」と千田氏は語気を強めた。

生物剤マルチ検知器IMSS

 

ノルメカエイシアは、今年3月から「生物剤マルチ検知器IMASS」の販売を開始した。通常は2日程度かかる炭疽菌や リシン、ペスト菌、ポツリヌス毒素などの生物剤の検知、同定を15分程度で可能にする。1本で8種類の生物剤を同時に検出することができるという。英国陸 軍で実際に使用しているもので、英国防衛省大臣ライセンスのもと英国BBI DETECTION社が開発、製造したものだ。操作も簡単なため、特別なトレー ニングは不要。エボラ出血熱対応も今後発売されるという。また、IMSSを含む放射線、化学物質、バイオ、検知キットなどをセットにした 「RAcBIT(Radiation Chemical Bio Identify Tools,ラビット)」の販売権も取得。東京オリンピックのCBRN対策を加速させたい考えだ。