国内外で感染者が増加傾向

非定型的抗酸菌症は、ごくまれに発症する疾病であることから、日本国内では、最近まで問題視されていませんでした。正確には捉えられていませんが、近年増加しているという報告がなされています。すなわち、2007年には人口10万人に対して5.7人程度発症していたのが、2014年には、人口10万人に対して15人程度発症まで増加しており、決して珍しい疾病ではなくなっているのです。結核患者数より多いです。

非定型的抗酸菌症は結核と異なり、出現する症状が軽微で、病勢が進行しても生命に関わることが非常に少なく、家族に菌を感染させる危険もないため、注目されてこなかった疾病と考えられます。実際には報告されている数の倍以上の罹患者が国内には存在するのではないでしょうか。

一方、国外でも非定型的抗酸菌症の増加していることが報告されています。アメリカでは、最近約10年の間に倍増し(現在では国全体では10万人に対して3人程度、特に罹患率の高い地域では10万人に対して40人程度)、もともと症例の少なかったヨーロッパ、オセアニアでも増加の一途をたどっています(10万人に対して1人程度)。

エイズ患者の50~60%はMACを併発

欧米では、エイズ患者や免疫抑制剤の服用により、免疫が低下した人たちの発症が増加しているため、非定型的感染症に対する関心は年々高まっています。例えば、アメリカの エイズ患者の50~60%はMAC感染症を併発していることが分かっており、今やMAC感染症は エイズ患者にとって最大の危害要因と考えられています。

中国、台湾、韓国などの近隣のアジア諸国では正確な疫学データが出されていませんが、これらの国々でも非定型的抗酸菌症は明らかに増加しているようです。中進国以下の国々の抗酸菌感染における全般的な情報が極めて少なく、これらの国々の非定型的抗酸菌の分布状態や、病原体として果たしている役割などの把握がほとんどできていないことに注目する必要があります。

これまで抗酸菌感染症としては、結核だけがクローズアップされていましたが、今後、非定型的抗酸菌の存在に対して強い認識を持ち、本菌の分布状況の詳細を明らかにして(特に中進国以下の国々)、可能な限り非定型的抗酸菌の分布密度を地球規模で下げる努力が求められるのではないかと考えています。非定型的抗酸菌が、何らかの原因で人を含む各種動物に対して、結核菌同様の強い病原性を近い将来獲得する可能性についても考慮に入れておく必要があると思われます。

次回は、脳炎を引き起こすフラビウイルス感染症について紹介する予定です。

(了)