2019/06/24
知られていない感染病の脅威

人の非定型的抗酸菌症
症状は、咳、痰、血痰、全身のだるさ、微熱、体重減少など
人の非定型抗酸菌で認められる症状は、結核と比較すればずいぶん軽いものです。しかし、症状は似ています。咳(せき)、痰(たん)、血痰(けったん)、全身のだるさ、微熱、体重減少などが主なものです。無症状で推移し、検診などで初めて診断されることも少なくありません。
確定診断には、喀痰(かくたん)からの菌分離が必要ですが、結核菌と異なり、非定型的抗酸菌は自然界に常在していることもあり、患者からの菌分離を複数回実施して、非定型的抗酸菌感染による疾病であることを確認する必要があります。また、抗結核剤で治療中の肺結核患者から、抗結核剤の耐性菌として非定型的抗酸菌が分離されることで、非定型的抗酸菌症と診断される場合もあるようです。
しかし、抗酸菌の人工培地での増殖が緩慢なため、確定診断にはかなりの日数が必要になってしまいます。
日本のみならずアメリカでも、特に基礎疾患を持っていない中高年の女性の発症例が多いようです。原因はよく分かっていませんが。肺結核が年々減少しているのに対して、非定型的抗酸菌感染による肺疾患は明らかに増加しています。
先ほど触れたように、本菌の人への感染経路の詳細は不明のまま残されていますが、エイズ患者へのMACの感染ルートとして、経口または飛沫感染が疑われています。しかし、エイズ患者間、または、動物からエイズ患者へMACが直接感染しているという疫学的な証拠はまだ得られていません。
治療には1〜3年間の服薬が必要
結核と非結核性抗酸菌症では、治療にかなりの違いがあります。結核の治療は、結核専用の優秀な薬が開発されていますので、標準治療によって治癒させることができます。それでも6~9カ月間の服薬が必要ですが。
一方、非定型的抗酸菌症では、一部の非定型的抗酸菌感染によるものは、抗結核薬で治癒させることができますが、それ以外の非定型的抗酸菌症では、専用の薬剤は開発されていません。従って、結核やその他の細菌に効果的な複数の薬剤を用いますが、何通りかを組み合わせて用い、最も効果の高いことが期待される薬剤の組み合わせで治療されます。
非定型的抗酸菌症のうち、MAC感染症と診断されて症状が重篤化し、肺のX線像所見も悪化した場合には、マクロライド系の抗生物質であるクラリスロマイシンとリファンピシン、エタンブトールの2種類の抗結核薬を毎日内服し、少なくとも1年半(菌が培養されなくなってから1年間)続ける治療が主に実施されています。また、必要に応じて、ストレプトマイシンまたはカナマイシンの併用も追加します。その他の非定型的抗酸菌症では、治療期間も通常2~3年と長期になります。病気の進展をある程度抑えることはできても、完全に治癒させることは難しいようです。
興味深いことに、結核患者に治療のために抗結核薬の投薬を続けていたところ、患者から結核菌は検出されなくなったのですが、いつの間にか使用していた薬剤に感受性を示さない非定型的抗酸菌に置き換わっていた、という報告もなされています。
非定型的抗酸菌感染と診断されても、明らかな症状が認められず、症状が認められてもそれ以上悪化もしない場合もあります。その際には、治療を続けるのが適当か否か検討する必要が生ずる時もあります。この病気は進行が遅いので、症状の悪化が見られなければ、あえて服薬治療せず、経過観察を続ける場合もあります。しかし肺に空洞などができ、排菌が止まらず、病変が限局している場合には、外科手術も治療法の一つになります。
治療後も定期的に胸部X線検査が必要
治療により症状が消えても、菌が完全に体内から消えることはまれです。治療終了後も再発しないか定期的に胸部X線検査が必要となります。再発すれば治療を再開しなければなりません。
非定型的抗酸菌は、健康な人が感染した場合、通常では、臨床症状を起こすことができないような病原性の弱い菌です。しかも結核菌と異なり、牛型結核菌同様、人から人への感染は起こさないと考えられています。非定型的抗酸菌感染症に限定されませんが、たとえ本菌に感染しても、十分に自然治癒力が備わり、発病を抑えられるように体調を常に整えておくことが必要です。
知られていない感染病の脅威の他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方