2014/09/20
C+Bousai vol1
市内全域8地区で防災計画
常に住民の側そばにある防災計画を目指して
Interview 室蘭工業大学副学長 加賀屋誠一氏
全国でいち早く地区防災計画を策定した石狩市。東日本大震災後に市の防災計画に危機感を感じた田岡克介市長が助言を求めたのが、当時、北海道大学工学研究院特任教授で、都市計画の専門家である加賀屋誠一氏(現室蘭工業大学副学長)だ。加賀屋氏は地域防災計画改定と地区防災計画策定の中心人物となり、プロジェクトを推進した。加賀屋氏に、地区防災計画の重要性と作成のポイントを聞いた。
防災はまちづくり
「防災計画は本来、まちづくりと同じ。まちのレジリエンス(しなやかな回復力)を保持するために、防災計画をベースにしてコミュニティのつながりを強くし、コミュニティを再生するきっかけを作ることが大事だ」と加賀屋誠一氏は開口一番そう語ってくれた。
加賀屋氏がコミュニティの強化による地区防災の重要性を訴えるのは東日本大震災よりも前からだ。「有珠山の守り神」とも呼ばれ、2000年の有珠山の噴火予知から近隣住民の避難までを指示した、元北海道大学附属地震火山研究観測センター長の岡田弘教授(現北海道大学名誉教授)の影響が大きいという。
有珠山は現在でも20年~ 30年に一度は噴火する活火山。噴火にはほぼ例外なく体に感じるような地震を伴うことから噴火は予知しやすいとも言われるが、岡田氏は火山が静穏な時期から地域住民と密着し、防災活動を浸透させてきた。その結果、噴火時にはスムーズな避難が成功し、死者が出なかったことや、日頃から自治体職員や防災機関と連携し、有珠山の噴火時に的確な助言をしたことでも知られていた。
加賀屋氏の専門は都市計画や交通計画だが、根本的には「まちづくりがどうあるべきか」がテーマだという。都市防災については早くから学んできたが、岡田氏の影響で防災にはコミュニティのつながりを強化しなければいけないことを強く意識するようになり、新たな防災のあり方について研究を重ねていた。この経験が、石狩市長から諮問を受けた時に即座に地区防災計画を提案することにつながったという。
地区防災計画はアクションプラン
「地区防災計画は、地域防災計画のエリアを狭めたものではない。地区防災計画は住民が自ら作るアクションプランでなければいけない」と加賀屋氏は指摘する。石狩市では住民が自らの意思で参加するワークショップ形式で地区防災計画を策定した。自治体が災害対応時に行うべき行動をまとめた地域防災計画が東日本大震災時に有効に機能しなかったことは、特に被災の影響が大きかった沿岸部など各地で指摘されているが、極端なことを言えば、住民の立場でまとめる地区防災計画はA4 用紙1枚のアクションプランでいいと言う。災害が起きて避難が必要になれば、「○○を持って、この道を通ってここに行きなさい」と書いてあれば十分で、大事なことはそのプランを住民が自ら議論して作成し、それをいつでも見えるところに貼っておいて、実際に行動することだとする。同じように避難所の運営にしても1 ~ 2日の避難と、1カ月の避難であれば、持っていく物も避難所の運営の仕方も変わってくる。一時避難場所にしても、例えば札幌市は北海道大学内の農場を指定しているが、災害が冬に発生したら農場には雪が降り積もってしまい避難所には適していない。そういう問題点を、住民が自ら主体的にきめ細かく平時から議論しながら、コミュニティの絆を深めていくような取り組みが、非日常(災害時)のレジリエンスを高めていくのだという。
日常生活での自助・共助
加賀屋氏が地区防災計画策定のワークショップにアドバイスをする上で一番難しかったのは、実際に災害を経験した人が少なかったことだという。石狩市では、約30 年前の1981年に大規模水害が発生しているが、それ以降は大きな災害がなかった。そのため、ワークショップは、まず自分たちにどのような災害が起きる可能性があるのかを想定することから始めた。ただ、どのような規模の災害を想定すればいいのか議論が分かれたという。例えば津波の高さは何mまで想定しなければいけないのかなど、現在の知見をもってしても分からない部分が多い。ワークショップの開始当初は他にも難しい議論が百出して混乱することもあったが、加賀屋氏は、地区防災計画は自助・共助の部分がほとんどであり、行政に対して何かを陳情するのではなく、まず自分たちに何ができるかを考えてもらうように説明し、少しずつ納得してもらったという。「最終的には、普段の生活に防災・減災といった視点をどう組み入れてもらうかであり、日常生活の中で自助・共助への取り組みが身についていくことが大事。地区防災ガイドを作った石狩市の一番大きな成果は、常に住民の側に地区防災計画が置かれるようになったことだ」と加賀屋氏は話している。
C+Bousai vol1の他の記事
- 「対策」ではなく「思想」を創る 住民と900回のコミュニケーション (高知県黒潮町)
- C+Bousai 創刊挨拶、地区防災計画学会 案内
- 特別対談|住民の権利と責任を制度化 自ら考え行動する地産地消の防災
- 市内全域8地区で防災計画 住民主体でガイドブックも作成 (北海道石狩市)
- 地域コミュニティごと防災計画策定 避難所運営計画、防災マップ作成も呼びかけ (香川県高松市)
おすすめ記事
-
防災は面白くないと広がらない
地震が起きたとき、スマートフォンに通知された情報を頼りに避難を判断することが多いだろう。緊急地震速報の情報から、いまどのように動くべきかを判断できる、そんな身近な危機管理を習慣づけた1 社が、アールシーソリューション(東京都新宿区)だ。2010 年に提供開始したスマートフォンアプリ「ゆれくるコール」は、緊急地震速報を受信できるアプリとして多くのユーザーが利用している。代表取締役の栗山章さんは、数多くのユーザーに防災の重要性を広めてきた一方で、ビジネスとして成り立たせる難しさにも直面してきたという。これまでのサービス開発の経緯や、防災ビジネスへの価値観を聞いた。
2026/09/09
-
被災施設への再入場判断「戻ってはいけない」では解決しない避難後の問題
大地震が発生し、安全な場所へ避難して一息つくと、人々には「ひとまず危険のピークは過ぎた」という根拠なき安心感が芽生える。そして、さまざまな理由で「避難してきた場所に戻りたい」といった気持ちが生じる。しかし、被害がどの程度なら戻ってよいのかについての明確なルールや事例は、どこを探してもあまり見当たらない。 国には応急危険度判定という仕組みや、施設管理者が建物を緊急点検するための指針などもある。が、これらは避難直後の「戻りたいニーズ」に応える仕組みではない。ここに、避難直後の「再入場」という古くて新しい問題がある
2026/09/09
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/09/08
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2026/09/07
-
-
-
暗黙知を形式知へ、10年の徹底改善が生きた
熊本市の工務店・新産住拓株式会社(小山英文社長)は、2016年の熊本地震や近年相次ぐ豪雨災害を通じて災害対応を磨き上げてきた。発生当日は、約3割の社員が定休日で社長も不在という条件下にもかかわらず、地震発生から50分で社員の安否確認をおおむね完了し、2時間後にはホームページや顧客専用サイトで被害受付を開始した。
2026/08/24
-
-
-





※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方