2016/07/19
防災・危機管理ニュース
熊本地震の教訓
平野石油がネットワークを構築しながら対応した熊本地震だが、様々な「想定外」も発生した。
4月14日の震度7の地震が発生したのち、九州電力は直ちに災害対応を開始。15日には県内で約12,800戸が停電し、高圧発電機車による送電作業が始まった。「高圧発電機車」とは、別名「移動電源車」とも呼ばれる、車に搭載した高圧発電機により自家発電する車両のこと。今回の熊本地震では発電した電力を直接電線につなぎ、電力が不足している地帯に送電した。
この高圧発電機車は1台1時間当たり最大で200リットル(ドラム缶1本分)という大量の軽油を消費する。その高圧発電機車が全国の電力会社から集められ、17日には56台、18日には85台、最終的には169台にまで膨れ上がった。これだけの発電量を賄う燃料を、道路なども寸断されている被災地に集めるのは非常に難しい作業と言える。


加えて、電力会社の要請で当初集まったタンクローリーはガソリンスタンドにある灯油などを家庭などに販売するための小型タンクローリーが大部分。平時は小回りが利き便利だが、容量は1000リットル~2000リットルと少なく、ホースの長さも10m~20m。バッテリーでモーターポンプを回し給油するため、給油のスピードも非常に遅かった。
復旧作業が長期化し、被災地に充分な電力を供給するには、高圧発電機車の増台が必要と考えた九州電力は、全国の電力会社に出動要請をかけた。発電機車と同時に、燃料を配送するためのタンクローリーも、1回でまとまった数量を配送できる専用ローリーと、危険物を安全に取り扱いの出来るドライバーを要請した。しかし、ここでも問題が発生した。
平野氏は「まず最初に発生したのは情報の錯綜だ。4月19日の12時30分に愛知県の協力会社から私たちに手配可能か確認があり、その30分後には、被災地に近く、燃料の配送が可能な協力会社と調整し、手配可能と連絡を入れた。しかし最終的に我々に手配要請があったのは4月20日の朝9時頃だった」と当時を振り返る。
これには電力会社側にも事情がある。九州電力はまず全国の他の電力会社に燃料とタンクローリーの出動を依頼。各電力会社は要請を受けて取引のある協力会社に連絡し、さらにその協力会社からまわりまわって手配依頼を受けたのが平野石油だったのだ。返信もその逆をたどったため、ほぼ1日のタイムラグが生じてしまった。
平野氏は「電力会社から私たちに直接依頼をいただければ、このようなことは起きなかったのでは」とする。
さらに、熊本県内のサービスステーション(SS)で一時的に燃料が不足するという情報が流れ、様々な人が燃料を求め向かった。実際、急激な需要の増加、道路状況の悪さ等から燃料を届ける事が出来ず、一時的に枯渇してしまうという事態も発生する。
「有事の際SSだけを燃料確保、タンクローリーの運用拠点として考えるとBCPが十分に機能しない可能性が高いと考えている」(平野氏)

防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/05/05
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方