2019/10/30
葛西優香の23区防災ぶらり散歩
次の転機は認定制度
そして、住民の方々がより力を入れるようになったのは、2015年2月から始めた「中央区防災対策優良マンション認定制度」でした。認定の対象としては、住宅の戸数が10戸以上のマンションで分譲・賃貸・社宅などの種別は問いません。
防災対策に積極的に取り組んでいるマンションであることを広く周知できたり、防災資器材の支給や防災訓練経費の助成(年額上限5万円)、認定証(盾、シール)の交付が受けられます。
発生するかどうかわからない、本来であれば発生してほしくない災害への備えに対しての活動は、モチベーションを保ちにくい。しかし、第15回でお話を伺った「ファミール月島グランスイートタワー」のように、この認定制度を目標として設定し、取り組みを推進するマンションが増えてきたのです。認定の要件は4つ決められており、取り組むべき内容が明確であることから、活動を行う張り合いが生まれます。認定要件は下記の通りです。
1.防災組織の設置
…防災組織をマンション内で設置し、活動内容を当該マンション居住者に周知していること。
2.防災マニュアルの作成
…災害時に居住者が自宅で自立した生活ができるよう、各家庭での防災対策、居住者同士が協力して安否確認を行う等の活動内容が記載された防災マニュアルを、防災組織が作成していること。
3.防災訓練の実施
…原則として防災訓練を年1回以上実施していること。
4.地域との連携が図られている
…災害時に地域の町会と連携した防災活動が行えるよう、日頃からコミュニティ形成に取り組んでいること。
「年に1度の訓練はやっているし、マニュアルも作成した!」というマンション住民の方々は、中央区以外でも多いのではないでしょうか。特に重要なのは、要件の1と4だと思います。1の内容のように、防災組織の設置だけでなく、その活動内容をマンション居住者に周知していることが条件となります。
防災活動でよく起こることは、活動をしている中心の方々だけがマニュアルなどの内容を理解しているという状況。組織構成についても属している人だけが活動内容を理解していて、他の住民には活動内容が伝わっておらず、いざというときに連携して動くことができないという状況になっていないでしょうか。
また、4のようにマンション内だけで完結していて、地域の他町会とは関係ない、分離した状態で対策を進めてしまっているな…と感じる地域やマンションも多いのではないでしょうか。
組織を結成したからには、携わっていない居住者とも日常から活動を共にし、実施していることを明確に「伝える」ということが非常に大切になってくると考えます。
また、「自分たちのマンションさえよければ…」という考え方では、いざというとき、マンション内に何も物資が入らないかもしれません。そんなとき、誰に頼ればいいのでしょうか。日常から孤立していると地域で声をかける人も見つかりづらいかもしれません。そうなると孤立してしまいます。
地域から住んでいるマンションが孤立しないために、1~4の要件をすべて満たし、取り組みを続けることが大切になります。
4の要件に区の方もこだわったそうです。「高層のマンションが建ち並び始めたとき、地域の町会とのつながりがどんどん薄くなることを感じていました。地域からするとオートロックのマンションで普段からの連絡が取りづらい。マンション住民からすると町会の方々はどんな活動をしているのかわからない。とお互いの様子を遠くから眺め合っているような状況。よって、つながることができるきっかけが必要だろうと、マンション側に町会との連絡担当者を設けてもらい、架け橋となる方を決めてもらうようにしました。そしてその担当者の方のお名前などは必ず町会側にお伝えするようにしています」と若月係長。
地域の中で難しい、日頃関わりがない方々同士の接点の場。区の方が自ら動いて、きっかけとなる機会づくりを担ってくださっているんですね。
「この認定制度の影響もあり、独自のマニュアルを作成したい、防災アドバイザーを派遣してほしいというマンションが増えました」と木本さんは、区民が制度を受け入れてくれたうれしさと成果を語ってくださいました。今では77棟のマンションが認定されています。全マンションが認定受けるまで取り組みを推進するには、まだまだ先は長いように感じます。
しかし、区民の方の意識変化に喜びを感じる若月係長は、2006年度に初めて防災課に配属されました。6年間防災マニュアルやパンフレット、DVDの制作に携わり、東日本大震災も防災課で経験されました。
高層住宅居住者向けの対策として、震災も踏まえ、阪神淡路大震災、東日本大震災など過去の震災による教訓を掲載するなど、「揺れる高層住宅」から「備えて安心!マンション防災」とタイトルも変え、高層住宅防災対策に関するパンフレットの改定に努めました。
「震災も踏まえ、情報収集の方法に関する内容を主に変更し、高層住宅防災対策に関して改定に努めました。経験に基づいた具体的な改定ができたのは大きかったです」と若月係長はこれまでのスピード感を持った中央区の防災対策を振り返っておられました。
東日本大震災の教訓も反映し、すでに住んでいる方、新しく住み始めた方の接点づくりの仕組みを構築し、つなぎ合わせる中央区の取り組み。
三本柱の取り組みのうち、
1.地域防災の取り組み
2.高層住宅の防災対策
についてお伝えしました。
9月1日には、「中央区総合防災訓練」が開催されました。住民訓練はもちろんのこと、中央区ならではの帰宅困難者対策に関する訓練を多くの企業の方と一緒に計画されています。その様子も含め、次回は、「3.帰宅困難者対策」についてお伝えします。
(了)
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