2019/09/08
危機管理の要諦
仮に災害時の出社基準についてルール化されていないとしても、自らが危険と判断したら、無理に出社することは好ましくない。会社の安全管理者などに連絡をして、時差出勤や在宅勤務を要請してみるのも手だ。
会社としては、仮に暴風にもかかわらず出社を命じ、それにより万が一従業員が出社途中で死傷した場合には、安全配慮義務違反を問われる可能性もある。
すでに社内会議や顧客などと面談の予定が入っていれば、あらかじめリスケの可能性や連絡方法を伝えておくことも大切だ。
L(命を守る)→I(被害拡大の防止)→P(生活・財産の保護)
大きな事故や災害が起きた後には、まずは自身の安全を確保した上で、周辺状況を確認し、いかに二次災害に巻き込まれないようにするかを一人ひとりが考え、行動することが極めて重要になる。
このブログでも、何度か紹介してきたことだが、アメリカの消防では、緊急事態における行動の優先順を「LIP」という言葉で教えるという。LIPはLife Safety:生命の安全、Incident Stabilization:災害の安定化(被害拡大の防止)、Property Conservation:財産の保護、の頭文字をとったものだ。緊急時に、生命の安全を優先するのは当然だが、命が守れたら、それ以上、被害に巻き込まれないように事故現場を安定化させ、その上で、初めて財産の保護を行う。この優先順位が守られなければ、消防士自らが命を落とすことになりかねないため、くどいほどにこの基本を徹底させているのだろう。
しかし、これは消防に限った話ではなく、すべての人に共通する危機管理の鉄則と言ってもいい。災害時には、一時的に身構えても、一旦危機が過ぎされば、安全かどうかも確認せずに、すぐに普通通りの生活を始めようとする。一時的に災害そのものが大きな被害をもたらさなくても、その後に事態が一変することを我々はここ数年で何度も目の当たりにしている。ちょっとした交通機関の混雑でも、一歩間違えば雑踏事故など新たな災害を引き起こすかもしれない。2001年に起きた明石市花火大会歩道橋事故では雑踏事故により11人もの人が亡くなっている。かなり昔だが、1934年には京都駅で77人が死亡するという雑踏事故も起きている。
もちろん、起こり得ることすべてを想定することはできない。だからこそ、地震や台風の後は、すぐに油断せず、しばらくの間は、何かが起きるかもしれないと神経を尖らせることが必要になる。さらに言えば、自分が大丈夫でも、災害後の混乱により、大きな影響を受ける人たちがいることも忘れてはいけない。昨年の台風24号に伴う交通機関の大混乱により、目の不自由な方や車イスに乗った身体障がい者の方々は行き場を失った。駅は人であふれかえり、目の見えない方は杖もつけないで人込みに押され、車イスの方は、自分でも行けない方向に押し流され、いつまでも電車に乗れない状況に陥った。一般の健常者にとっては、大した影響がない災害でも、致命的な影響を受ける人々がいることをしっかり頭の中に入れておくべきだ。
(了)
危機管理の要諦の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方