2019/09/24
安心、それが最大の敵だ
人類の福祉増進のため
戦後のインフレは、物不足はすさまじく、恩給生活者青山の生活は、内務技監まで務めた技術官僚の老後にしては貧しすぎた。内務省時代の後輩たちが心配して、静岡県総合開発審議委員会委員にしてわずかながらも生活費を確保させた。青山の助言は的確で、批判めいたことや不平ひとつ言わなかった。青山は富士山の大沢崩れ対策なども手掛けた。
「生きる限り仕事をする。仕事が出来なくなった時、その時が自分の死ぬ時である」。恩師廣井勇の言葉であり、若い技師青山士への助言でもあった。
「土木学会誌」新春号・昭和24年1月号のアンケート調査に答えている(「新春寸言録」より)。青山は71歳である。
一、 今年やりたいと思うこと、やって欲しいと思うこと。
二、 最近読まれた図書の感想。
三、 今まで最も思い出となった仕事について。
青山の回答。
一、 土木技術に対する認識と尊重と協力とをより広く社会に呼びかけ求めて、人類福祉の増進に尽くされん様に、又自らも尽くしたいと存じます。
二、 東京「理想社出版部」、The Epic of America by J.T.Adamsの木下松代、原田のぶ子さん達によって訳されたる米国史。北米合衆国の現在世界に重きをなして居る所以。民主主義政治の起源。米人の闘志を感激す。
三、 中央アメリカパナマ運河工事。其工事に一九〇四年から一九一一年迄、従事し、帰朝後今に至る迄(戦争中は中絶)二人の米国人同労者(Co-worker) と音信を交わして居ること。(元内務技監)。
青山は昭和25年(1950)に土木学会名誉会員に推挙された。時折、東京の雑誌社からパナマ時代や内務省時代の思い出話についてインビュー取材の依頼があった。
「私の技術者人生と言われても話すことはないな」と照れたように笑ったが、取材は拒まなかった。青山は晩年に至るまで読書家だった。「聖書」「内村鑑三全集」「唐詩選」「寒山詩」「シュバイツアー全集」「吉川英治全集」、パナマ運河関連英文図書を読み、郷里の野山や河川を散策する暮らしぶりは清貧である。「シュバイツアー全集」は内村鑑三の助言もあって愛読していた。シュバイツアー博士(1875~1965)は、現在のアフリカ・ガボン共和国に属する熱帯の地ランバレネに病院を建て医療福祉活動に長年従事した。”Example is leadership!”. (自ら行動で示すことがリーダーシップである)。青山が愛唱したノーベル平和賞受賞者シュバイツアーの言葉である。
内村はシュバイツアーの医療伝道に感銘を受け献金をしている。「余は如何にして基督教徒となりし乎」などのドイツ語訳を読んでいて、両者の間に手紙の交換が行われるようになった。昭和2年(1927)にはシュバイツアー後援会を設けて医療伝道を積極支援した。当時、聖書研究会会員だった野村実は医師となった後、ランバレネの病院でシュバイツアーを助けて働くことになる。熱帯雨林のジャングル生活を体験した青山はアルベルト・シュバイツアー著「水と原生林のはざまで」を繰り返し読んだ。
昭和28年(1953)秋、建設省東北地方建設局(当時)管内で河川の視察をした後、月刊誌「建設東北」のアンケート調査に応じている。問いは「東北地方建設局に望むこと」である。「正しく強く生きる事の人格の陶冶(とうや)により、社会人として、又建設方面における規範を示されること」。75歳の青山が後輩技師たちに投げかけた「遺言」である。
昭和29年(1954)10月、青山は土木学会創立40周年記念式典に修出席し即興の短歌を披露した。
木を植えて 土かうここに 四十年 学び会ふては 弥栄を祈る
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