2019/12/05
昆正和のBCP研究室
■火災避難の盲点はなかったか
ところで7月、京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオで34人が放火によって亡くなった事件を覚えている人も多いだろう。この会社では日頃から防災対策や防災訓練に力を入れており、防災上の不備はなかったと見られている。
昔と違って今日のアニメーションスタジオはデジタル化されているから、膨大な枚数の燃えやすいセル画が社内を埋め尽くしていたわけではない。それでも瞬く間に煙と炎が螺旋階段を伝って3階に達したことがこの火災の悲惨なところだ。一見すると比較的シンプルな造りの建物である。日頃の訓練の成果を発揮して全員無事に避難させることはできなかっただろうか。この無念さは誰しも思うところである。
自然発火やヒューマンエラーならぬ放火犯の乱入という信じられない出来事が心理的に体をこわばらせ、有毒な煙を吸い込んだためにスムーズな避難行動が阻まれたことは間違いない。しかし一方、難を逃れた従業員の話では「スタジオには背の高い机が並べられており、荷物や社員で過密状態だった」という。避難がうまくいかなかった別の要因としては、こうした点が影響していたのかもしれない。
今回の事例を後知恵や憶測で語ることは好ましくないが、あえて次のことには触れておきたい。たとえ社内に消火設備が完備され、毎年避難訓練をしていても、社内が複雑なレイアウトになっていたり、多くの備品やモノがあちこちに置かれていたりすれば避難の妨げになる。人が密集する室内に煙が充満すれば、方向感覚がまひして集団パニックにも陥りやすい。いずれも逃げ遅れの原因としてしばしば指摘されるケースではある。
昆正和のBCP研究室の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方