2020/01/06
気象予報の観点から見た防災のポイント
風の急激な強まり
急激に発達する低気圧の何が怖いか、それは風の急激な強まりである。油断すると、防災対応が後手に回りやすい。
図1において、31日と1日の天気図には低気圧の予想進路が表示されている。気象庁では、台風については必ず進路予想を行い、温帯低気圧については、域内の最大風速が24時間以内に毎秒25メートル以上に達すると予想される場合、もしくは現に達している場合に限って行うこととしている。現在では予報円を用いて予想進路を図示するが、1970年当時は扇形で表示していた。
そこで、改めて図1を見ると、予想進路が31日と1日の天気図に表示されているのは当然として、30日の天気図に表示されていないのは、筆者が記入を忘れたのではなく、NHKラジオの放送原稿になかったからである。つまり、30日正午の段階で、気象庁は、この低気圧が24時間以内に毎秒25メートル以上の暴風を伴うほどに発達するとは予想しなかったということだ。30日から31日にかけての、この低気圧の稀有(けう)の発達を予想することは、当時の予報技術の限界を超えることであった。31日と1日の天気図に表示された予想進路も、残念ながら適切であったとは言いがたい。
防災気象情報において、台風の場合は、暴風域(毎秒25メートル以上の風が吹く可能性のある領域)と強風域(毎秒15メートル以上の風が吹く可能性のある領域)の大きさが、いずれも中心からの距離で示される。これは、台風に伴う風速の分布が、中心付近(眼の周囲)で最強となり、中心から離れるほど弱くなるという一般的な性質を前提にしている。これに対し、温帯低気圧に伴う風速分布は規則性がなく、中心から離れたところに最強風速が現れることもある。だから、温帯低気圧の場合、強風域は一応中心からの距離で示されるが、暴風域は示されない。強風域の中に、暴風の吹く場所が不規則に存在する。
「昭和45年1月低気圧」の場合、低気圧の発達の予想が不十分な中で、強風域が急激に拡大し、最強風速も増大した。各地とも、不意に暴風に襲われたような状況だったのであろう。福島県いわき市の小名浜港での貨物船沈没事故も、そうした状況で発生したとみられる。
記録的な降水量
「昭和45年1月低気圧」は、冬としては多量の降水をもたらした。31日9時までの24時間降水量は、三重県宮川で288ミリメートル(アメダス以前の観測)、静岡県網代で143.5ミリメートル、栃木県奥日光で142ミリメートルに達した。北海道十勝地方の広尾では、31日の日降水量が131.5ミリメートル、帯広でも111.5ミリメートルに達したが、これらは現在でも1月としての極値になっている。東北地方でも、1日9時までの48時間降水量が100ミリメートルを超えたところがある。夏場の大雨には比ぶべくもないが、冬としては記録的な降水量であった。
問題は、この降水が雨として降ったのか、それとも雪として降ったのか、またどのような状況で降ったのかである。本州の日本海側では、積雪のあるところに大雨が降り、気温上昇による融雪も加わって、河川の増水・氾濫が発生した。また、積雪があるために排水が妨げられ、浸水や冠水などの被害も発生した。北海道十勝地方は、前述の降水量が全て雪として降り、1日9時までの48時間降雪量が、多いところで約1メートルに達した。
この時、札幌で観測された31日の日降水量は59.5ミリメートルで、1月として歴代2位の記録であるが、その大部分は雪として降った。31日の日降雪量は63センチメートルで、札幌における通年第1位の記録すなわち極値となっている。当時、札幌市内の高校の部活動で気象観測をしていた筆者は、積雪に半身埋まりながら、雪原をもがき泳ぐようにして、やっとのことで校庭の百葉箱に到達したことを記憶している。
まとめ
冬は温帯低気圧が発達するシーズンである。その多くは日本列島の東海上で発達するのだが、中には日本列島の近くで発達するものがあり、いろいろな問題を引き起こす。
まず、急激に襲ってくる暴風に警戒が必要である。最近は予報技術が向上しているので、気象台から発表される防災気象情報に注意していれば、「昭和45年1月低気圧」の時のように不意に襲われることはないかもしれない。
季節外れの大雨は、夏場の大雨ほどの降水量でなくても、夏場とは違った形で被害を発生させる可能性がある。融雪水が加わること、河川敷などの河道が積雪に覆われていることなどを考えれば、真冬の洪水は一筋縄ではいかない難しさがある。
市街地でも、積雪のあるところに大雨が降れば、排水が滞って浸水害を引き起こす。また、寒冷地で厚く踏み固められた道路の雪は、雨水を含むとザクザクの雪層に変わり、自動車は身動きが取れなくなり、人間も歩くのに難渋するようになる。こうしたことは、温暖な非積雪地に住む人にはとても想像できないことであろう。
発達する低気圧に伴う大雪は、水分を含んだ重い雪がどっさりと降る。交通に障害が発生することは言わずもがなだが、一般市民が自宅の前を人力で雪かきするのに普段の何倍もの力を必要とし、うんざりさせられるのがこのタイプの大雪である。
この他、本稿では触れなかったが、真冬に発達する温帯低気圧は、暴風雪、着雪、雪崩、高潮といった災害現象も伴う。冬の温帯低気圧は、気象災害種目のオンパレードの様相を呈する。冬の温帯低気圧を甘く見てはいけない。
(了)
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