2017/02/10
未来のレジリエンス・テクノロジー
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/1/5/670m/img_15628d8384bf331a6c162cd19d901506169950.jpg)
(※地域住民と行政の情報を一体に!eコミュニティ・プラットフォーム【前編】から続きます。)
国や県、市町村、地域住民などそれぞれの立場で使いやすい災害対応システムは異なります。それぞれの組織が業務に合わせて効率的なシステムを考えると違いが出てくるのは当然です。それでも、情報だけは各組織に支障なく行き渡る仕組みにしたい。
例えば、市の災害対応システムは市の担当者が情報を入力するのが基本ですが、大きな災害が起こると手が足りなくなり、情報の入力や取得が制限されます。そして、情報が不十分な中で対策を実施したり、意思決定しなければならない。それは非常に厳しいので、国や県が持っている情報を引き出して、自分たちのシステムにも転用できるようにします。
地域住民も同様に、自分たちが必要とする情報を他の組織から引き出してeコミュニティ・プラットフォームで活用して、総合的な判断をする。新潟県の三条市では自分たちが持っている市の情報と県や住民が持っている情報を同じ画面に統合してひとつの画面に表示し、意志決定に役立てる訓練を行いました。
2014年9月からは国レベルの取り組みとして、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム「レジリエントな防災・減災機能の強化」が始まりました。各府省庁・関連機関、自治体、民間の情報共有を仲介する、府省庁連携防災情報共有システム(SIP4D: Sharing Information Platform for Disaster management)を開発するプログラムです。
熊本地震が起こると防災科研はこのシステムを活用して支援しました。これまでの防災科研は観測、解析、調査に専念していましたが、この地震では災害対応機関の情報共有・活用支援と被災者の生活再建支援を行いました。
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/e/b/670m/img_eb4c36ef8139dd588e3ff82207e8175644473.jpg)
まず防災科研をはじめとした各種機関が発表した観測調査データを集約し、SIP4Dに取り込みました。地震の翌日には研究員を現地に派遣して、現地で利用されていた紙の情報をスキャンし、位置情報があれば地図に追加しSIP4Dに入力。県や市の災害対策本部や医療救護班、災害派遣医療チーム(DMAT)などのニーズに合わせて紙やデータとして提供しました。
また、防災科研クライシスレスポンスという名前をつけて、集約した情報を災害対応支援地図としてインターネットで一部公開していました。なお、不確実性が高く、一般に公開すると混乱してしまう可能性がある情報は災害対応機関に限定して提供しました。
熊本地震では道路の通行情報が表に出てこなかったので、熊本県庁からの情報を地図化。被災した熊本県と大分県では道路情報の形式が違ったので、これを統合しました。別のソースからの通行情報も反映できるようにしました。また、県や市町村のもつ避難所の情報にDMATからのデータを組み合わせ、より迅速な避難所情報の提供を行いました。
被災後に撮影した空中写真を使って屋根のブルーシートから被災家屋を推定したり、センサーをつけた車が走り回って計測した道路の段差データを共有することで、優先復旧させる道路の選択などにも統合したデータが利用されました。学校を再開する段階で避難者の移動先を検討するときにも使われました。
未来のレジリエンス・テクノロジーの他の記事
- ドローンを組織の災害対策に生かせ!災害ドローン救援隊「DRONE BIRD」【後編】
- 地図の未来、ドローンの未来。ドローンを組織の災害対策に生かせ!【前編】
- 組織の垣根を取り払え!SIP4Dが熊本地震で活躍 eコミュニティ・プラットフォーム【後編】
- 地域住民と行政の情報を一体に!eコミュニティ・プラットフォーム【前編】
- 2020年には約11.8~13.5兆円に。急成長する国土強靱化ビジネス
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方