空気呼吸器をつけたドッジボール訓練  「Firefighters and dodgeball training」(出典:YouTube)

複雑な構造の建物火災で要救助者が複数逃げ遅れ、黒煙が充満している中での検索・救助活動時、さらに空気呼吸器の残圧が低くなり、退出開始を教える警報が鳴り響いたとする。

そのような時にその小隊、またはバディーはどのような手順で現場から屋外へ退出するか?どうしたら、消防活動中、空気呼吸器による呼吸を安全に長く保てるのか?

もちろん、空気呼吸器を使う現場での活動内容によって様々ではあるが、普段から、空気呼吸器着装時の呼吸管理を身につけておくと安全管理に繋がると思う。

下記のビデオでは各隊員の呼吸管理能力や、残圧がなくなって倒れた隊員を救出する能力を高める訓練としてドッジボールを使ったゲーム的なトレーニングを行っている。



Firefighters and dodgeball training (出典:YouTube)

消防署によってドッジボールトレーニングのルールは違うが、多くの消防署が行うのが次のコンビネーショントレーニングである。なお、参加するのは空気呼吸器を付けて現場進入する可能性のある大隊長以下すべてだ。

1、参加人数の半分の個数のボールをコートの中央ラインに並べる。

2、各個人装備を目の前のスタートラインに並べる。

3、スタートの笛の合図で、活動服の状態から個人装備を着装し、空気呼吸器の面体着装しフル装備し、残圧を確認してジャッジに報告し、フル装備着装完了した隊員から中央ラインにボールを取りに行って、ドッジボールを開始できる。

4、ドッジボールを当てられて、ボールをキャッチできなかった隊員はその場で倒れてコート外へ搬送され、FD-CPRの脱着救助訓練(CPR2セットまで)される。

※「FD-CPR」についてはこちらの記事を参照
■米国で開発された、消防士による消防士のための「FD(Firefighter Down)-CPR」 http://www.risktaisaku.com/articles/-/1831/ 

5、最後までエアーが残っているか、ドッジボールに最後まで残った隊員が居るチームが勝ちで、次のゲームでは計測係をする。負けたチームの隊員は次のゲームも参加する。

6、タイム係は各隊員にスタートから止める時点までのタイムと空気呼吸器の圧力の消費を日時とともに表にまとめ、各隊員のトレーニング台帳に記録する。


この訓練の大きなメリットや目的は下記の通り。

・消防現場活動とほぼ同等の運動量で汗を掻き、体温と心拍数を上げながら、呼吸を意識的にコントロールすることを体験し、訓練する。

・空気呼吸器を着装したまま倒れた隊員を救助し、脱着し、CPRと酸素投与を行うまでの一連の救急救助方法を全員が身につける。

・同じ圧力で充填された空気呼吸器で、どの隊員が他の隊員よりもどの程度
空気の消費量が多いかを知ることができる。

・各隊員が警報鳴動開始後、何分くらいで完全にエアーがなくなるかを計ることができる。

・現場活動と同じくらいの運動をしながら空気の消費時間を計り、進入・救助・退出までの呼吸管理計画を自ら身につけることができる。


以下、ドッジボールを使った呼吸管理トレーニングを始めた理由

・火災現場では、体や肺の大きさに関係なく、空気呼吸器のエアーの消費量を根本的に抑え、できるだけ長く安全に検索や救助などの消防活動を行うための呼吸法を身につけることが必要である。

・「落ち着いて呼吸をしているがエアーの消費が早い」という隊員は、肺を効率よく使えていないことが多い。肺の一部だけで呼吸をしていて、肺全体まで空気が十分に行きわたっていないことも多い。

・エアーの消費が早い隊員は、息を吐き出し方が一度に大量であること、また、十分に呼気を吐ききっていないことが多い。

・空気呼吸器での呼吸管理が上手でエアーが長持ちする隊員は、口をすぼめて吐く息をできるだけ長く、そして肺の空気をできる限り、吐ききっている。そして、吸うときにも口をすぼめて細く長く吸っている。

・エアーの消費を効率的に行う呼吸管理の要領としては、腹式呼吸で横隔膜を下げて肺を拡げるというようなイメージで息を吸うこと。そして、息を吐く時は横隔膜を押し上げて、肺から出来る限り空気を出してしまうことがコツ。

・上手に呼吸管理が出来ていれば、一度の呼吸でより多くの酸素が体内に取り込まれ、より多くの二酸化炭素が体外へ排出されること。浅い呼吸で同じだけの換気をしようとすると、何度も短い呼吸をしなくてはならず、結果的にエアーの消費が早くなることになる。

・呼吸の回数が増えるほど、無駄に吐き出す空気が増えていくということ。浅く速い呼吸よりも、深くゆっくりした呼吸がエアーの節約になることがわかる。

など


呼吸管理は、普段の呼吸習慣で意識すると比較的簡単に身につくほか、特に腹筋に力を入れた状態で、細く・深く・長い呼吸を日頃から行うことで、さらに集中して呼吸調整ができる。

世界の消防士達が挑戦するゲームが下記のビデオで紹介されており、日本の救助大会のワンシーンもある。



Firefighter Competition Worldwide (出典:YouTube)

また、空気呼吸器メーカーの主催で下記のような現場でよく使う動きを取り入れたゲームも行われている。



Scott Firefighter Combat Challenge in Branson, MO(出典:YouTube)

■Scott Firefighter Combat Challengeのスケジュールはこちら
http://www.firefighterchallenge.com/2017_Schedule.pdf

日本の場合、所署内で空気ボンベを充填していないところも多く、アメリカのように1日に何十本も空気ボンベを訓練に使うには空気充填コストや現場で使うボンベ本数なども確保しなくてはならず、難しいのかもしれない。

ただ、大規模な火災になればなるほど、空気呼吸器使用時の呼吸管理は消防活動上とても重要なスキルであり、特に夏場の猛暑下の火災ではさらにエアーの消費が増えると思う。

消防は活動対象が多岐にわたるため、訓練の種類も多いと思うが、救助隊に限らず、一般小隊においても基礎訓練として呼吸管理トレーニングは良さそうな気がする。

それでは。


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
代表理事 サニー カミヤ
http://irescue.jp

(了)