2020/04/14
福祉と防災
新型コロナウイルスと経済支援
「接触8割削減の目標達成には、一定の職種には休業が必要で、それには休業要請と補償がセットになるのが望ましい」ということはすぐにわかるが、実際に誰がどこまで負担するかを決めるのに時間が経ってしまう。1918年~1920年のスペイン風邪においても、内務省衛生局と県知事との間で経費負担の争いが見られている。その間に対策は遅れ、どんどん感染者が増えていく。
私は、大災害も感染症も国がガイドラインを作成して経費を負担し、自治体が実情に応じて上乗せ、横出し負担するのがよいと考えている。スピードが求められる感染症対策では、経費負担でもめている時間はない。
その進め方は、災害支援に準じてはどうだろうか。たとえば、災害時に避難所で生活するのには被害も所得にも制限はなく、食事など無差別支援をする。これは公平性よりも被災者感情への配慮、スピードを重視した対策だ。その後、徐々に被害や所得に応じた支援制度へ移行していく。これが公平性、実効性に配慮した対策になる。
これにならえば、すぐに多くの国民に(少額でも)緩い支援を行う。その後に制度設計を検討し、段階的に所得の減少や被害の大きさなど公平性、実効性の高い支援に移行することだろう。
新型コロナウイルスと避難所
新型コロナウイルス感染症が完全な収束を迎える前に、梅雨や台風が発生する出水期がやってくる。現状では、避難所は感染を拡げる3密(密閉、密集、密接)になりやすい。かつて、阪神・淡路大震災では季節性インフルエンザで多くの関連死が発生した。
避難所においては、埃っぽいことから咳エチケットを守ることは容易ではない。マスク、手洗い、アルコール消毒など物資は十分に用意できるだろうか。また、人と人との間を2mにすれば、体育館等での収容人員は圧倒的に減るであろうし、風雨が強いときに換気のために窓を開けるのは現実的でない。そうなると避難所を大量に確保する必要があり、政府からもホテル・旅館等の活用も検討するように通知が出ている。

そこで、第一に避難所への避難者をできるだけ減らす対策が必要である。ハザードマップなどを見て避難する必要のない人は避難所に行かない、避難の必要な人も可能ならば近くの知人、または遠くの親族などに行くなどである。そのための説明チラシの配布などを早急に実施する必要があるだろう。
次に、避難所の環境ができるだけ3密(密閉、密集、密接)にならず、また感染症が広がらないよう、対策を準備することだ。現状では、多くの避難所で配置図さえつくられていない。
第三に、新型コロナウイルス感染症に特に弱い要配慮者を個室で受け入れる福祉避難所を拡充することだ。ホテルや旅館等は、このような要配慮者を優先的に受け入れるように運用するのがよいと考えている。
このような対策をすることで、住民が安全に避難しやすくなり、避難所の環境もよくなる。実は、避難確保も避難所環境も、これまでが不十分だった。この機会に、避難、避難所のあり方を見直すことで、災いを転じて福となしたい。
災害と市区町村の責任
先に挙げた「災害時にトップがなすべきこと」には、次のように示唆に富む緒言から始まる。

我が国は災害列島と呼ばれ、毎年のようにどこかで大災害が発生している。しかし、当該都道府県では「たまに」、当該市区町村では「ごくまれに」被災を経験するというのが実態である。いわんや4 年任期の首長にとっては、ほとんどの場合、「職務上初めて」の経験である。
市区町村長は、多くの場合、災害に関する危機管理の訓練を受けておらず、しかも、わが国には災害の危機管理に関して市区町村長を体系的に訓練する仕組みは整っていない。その結果、毎年のように失敗と批判が繰り返されている。
それでもなお「危機管理における意思決定は現場に最も近い市区町村長がその責任を負うほかはない」というのが私たちの信念である。自分たちの地域への責任を、私たちは放棄するわけにはいかない。
思わず背筋が伸びる言葉だ。住民の命を守り抜く責任感のもと、計画、訓練を重ねる市区町村があって、初めて新型コロナウイルス感染症の下でも、安全な避難、避難生活ができるのではないだろうか。
福祉と防災の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方