2020/04/16
昆正和のBCP研究室
第28回[最終回]:
■伝達方法とメッセージの内容
どのような点に注意すれば適切なメッセージプランが作成できるだろうか。ここでは、基本的な状況(自社が被災して業務が止まった後)を想定し、次の3段階でクライシスコミュニケーション(個別の営業対応だけでなくウェブ上での告知も含む)を行うものとしよう。
(1)初動対応段階での「緊急報告」メッセージ
発災当日から翌日以降、被害の概要を把握した時点で行う緊急メッセージである。災害が起きるということは、社内の業務処理が、あたかも時間が止まったようにさまざまな段階(未処理、中断、完成、出荷前など)で停止するということである。それらの影響をいち早く汲み取って告知するわけだが、性急すぎて的はずれな情報を発信しないよう注意したい。
(2)復旧に着手したときの「経過報告」メッセージ
仮復旧か通常復旧かを問わず、復旧活動に着手したことで、被災の混乱から抜け出しつつあることを伝える。代替手段を駆使して通常とは異なる体制で業務活動を再開した場合には、顧客からあなたの会社への連絡先や担当部署が一時的に変更されている可能性がある。問い合わせ時に混乱を招かないよう前もって変更情報を伝えておくことが肝要である。
(3)復旧完了の「業務再開」メッセージ
1日も早く注文品を受け取りたい、発注を再開したいと考えている顧客に向けて、復旧の完了が間近になった時点、または完了した時点で伝達するものである。この時点で、より具体的に、受け付けた注文品の生産再開や商品・サービスの納期予定などの情報を提供することも顧客の安心材料になる。
以上のメッセージは、各段階で1回ずつ(計3回)発信すればよいということではない。あくまで時間の経過と復旧の進捗度に沿った種類の異なるメッセージであることを示したものだ。実際、個々の案件についてはよりきめ細かにメッセージを伝え、何度も顧客とやり取りをすることになるだろう。
被災地の企業なのに、フリーズしたように災害前と同じ情報を掲載し続けているウェブページを見かけることがある。被災してホームページの更新ができないのであればやむを得ないが、放ったらかしになっているだけなら、風評被害を受ける可能性があることを覚えておこう。適切なタイミングで適切なメッセージを発信することが、クライシスコミュニケーションの最も重要なポイントである。
- keyword
- BCP
- BCM
- クライシスコミュニケーション
- 危機管理
- 広報
昆正和のBCP研究室の他の記事
- 第28回[最終回]:3つのステップによるメッセージの発信
- 第27回:必要な人員の確保をはばむ要因と対策その2
- 第26回:必要な人員の確保をはばむ要因と対策その1
- 第25回:災害時の帰宅または移動の留意点
- 第24回:安否確認のポイント
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方